朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2026.09.11

[青嵐俳談]森川大和選

 順延しても雨。勤め先の高校の運動会は小雨決行となった。生徒は団席に巨大画を吊り上げる。落とさず、汚さず、破らぬように、濡れながら。開会式は雨上がる。しかし次第に雲は暗く、風は冷たく、予報を裏切る雨脚に。進んだ競技はまだ五つ。アナウンスが本部席より。雨音にほぼかき消され、辛うじて、中止が団席まで届いた。沈黙と雨。残りの競技を再開する日程を検討するという。団席が息を吐く。こんな青春だってある。

 【天】

かりんとう秋霖に木々膨よかに松野 川嶋ぱんだ

 中七の「に」は空間の「に」と読みたい。下五は感性に基づく把握。幻想的で厳か。「かりんとう」も木々の幹を思わせる。よい近さ。句全体のk音の摩擦やrの弾音が景の奥行きを広げる。雨の林が見える。

 【地】

不意に鳴る蔓の巻き付く誘蛾灯京都大院   武田歩

 はびこった蔓の奥から薄暗く、紫の光をでらでらと主張する誘蛾灯が怪しい。バチリと鳴る音は、本来は電撃格子に焼ける蛾の魂の音。この句では蔓の自身を焼く音か。いや、蔓とは「不意に鳴る」のかも。異なる摂理を思わせる。同時作〈蜘蛛の網蜘蛛の歩みに揺れざりき〉は目の確かさ。〈山脈に喉仏見せ缶ビール〉は遠近の清々しさ。山脈に喉仏の頂を見せる俳味。

 【人】

磨きたる帰燕日和のタイルかな三重 多々良海月

 家の水回りのタイルを磨く。きれいに輝けば刹那、刹那に燕を寄せる。羽根は藍黒、腹は白。喉元臙脂(えんじ)、くちばしの黒。帰る燕の光を映す。同時作〈重陽やトランペットのビブラート〉のめでたさと贅沢さ。

 【入選】

痛覚の擦り切れさうな鹿威し神奈川 河埜スミヰ

あをつたのそのひとすぢを剥いでみよ新潟  酒井春棋

ひらかれたままの聖書や虫の宿東温   堀雄貴

棍棒のやうに花持つ墓参の子松山  小林浮草

銀湾に水を一頭飼つてゐる大阪 高遠みかみ

ディオニスの玉座を飾るなら鶏頭北海道  柏木七歩

盆波やしゃくりと割れる琥珀糖兵庫  山城道霞

紫陽花のおほきく枯れて駐屯地米国   爪太郎

誠実をさがす残暑のグミ噛んで大阪 土井あつあげ

新品のリードに替えて犬は処暑八幡浜  福田春乃

菜箸を我が家の芯として秋夜兵庫  杉浦萌芽

白風や丸みを帯びる犀の角京都 ジン・ケンジ

夜の秋しろく暈けゆくカメレオン千葉 海亀九衛門

罪人に寄り添う人や秋深し愛知 紅紫あやめ

ホチキスの夢に林檎の頻出す大阪   葉村直

星流る横一列のビジューなり今治   京の彩

夏風でフォークの沈むパンケーキ大分大院  鶴田侑己

 【嵐を呼ぶ一句】

媚売つて恩売つて買ふ葡萄かな大阪   ゲンジ

 地元商店街の果物店か。「媚」も「恩」も売って値切るおかしさ。交渉の余地に人情味がある。しかし、葡萄一房も高価になった証。その時事性を評価。

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