公開日:2026.08.14
[青嵐俳談]森川大和選
明日の敗戦忌を前に。民意は選挙結果を経て顕現する。民主主義の弱点はこの時間差にある。だが、タイムラグを持ちながらも、国家と国民は呼応する。いかに戦争を遠ざける「今」と未来を築くか。
【天】
国旗損壊罪パンの真中に苺ジャム埼玉 伊藤映雪
ジャムパンの断面を、日の丸の赤に見立てた一句。これは〈国家よりワタクシ大事さくらんぼ 摂津幸彦〉の「さくらんぼ」の諷刺精神に通じる。「国旗」の「損壊」に至るほどの憤怒や憎悪の原因は何か。我々国民の生命の生々しさや、小さくも謳歌する自由への願いに対し、国家は慈愛があったか。歴史の為政者が時に忘却することを、八月は強く思い出させる。
【地】
手を挙げよステンドグラス・蝉の胸兵庫 石村まい
上五中七の多義性。戦場ならば銃口が向けられている。では教会は。葬儀のためか。一方で、神へ宣誓する場合にも右手を掲げる。何を約束、又は告白したのか。自己存在を託す厳粛な場面。雄蝉は腹で鳴く。一心に祈り鳴く。胸は飛ぶための、自由のための部位。祈りは雌雄の違いなく、胸の熱にあると思う。
【人】
熱帯夜いま一滴の母乳落つ静岡 海沢ひかり
この句も生きている。熱帯夜の母の汗。子の汗。訴えることを疑わぬ子の声と涙。自己存在のこれまでを刷新される母の身悶えのような涙。滴るほどの豊かな母乳。子に与え吸わす、暗がりの静寂の中の、熱。
【入選】
消しゴムの腸は真つ白夏休米国 爪太郎
触れるたび崩れる文字を昼寝覚静岡 東田早宵
夏の河馬口いつぱいに唾を引き京都大院 武田歩
蟻や今多腕の像の指先に大阪 葉村直
龍淵に潜む抜殻めく流木熊本 夏風かをる
うつくしき器官のやうにラムネ瓶愛知 唐沢うに
一滴ずつ水出しのモカ夏の星東温 堀雄貴
かなかなや水の匂いのする孤独京都 ジン・ケンジ
桃の汁伝ふ生命線の谷千葉 弥栄弐庫
釣舟のもやひにかかる水母かな松山 小林浮草
夏日影途切れ学校へは行けぬ伊予 曖昧もここ
檸檬より影の伸びゆく父の部屋東京 岩本遥
ゆるやかに坂下りゆく島踊三重 多々良海月
青林檎傾けてする永いキス大阪 高遠みかみ
食めば具のはみ出すタコス風薫る大阪 未来羽
大西日埠頭に道の這ひ廻る松山 一色大輔
炎昼や人類絶滅のニュース今治 京の彩
【嵐を呼ぶ一句】
ポップコーン弾け西瓜で終わる仲大分大院 鶴田侑己
このように「終わる」切なさも生の証。「西瓜」の甘さも瓜臭さも種の多さも、人生の比喩。「ポップコーン」という名の底抜けの明るさも、「弾け」様の不可抗力も、運命の不如意のごとく。みな「生きる」尊さ。




