公開日:2026.08.28
[青嵐俳談]森川大和選
俳句甲子園の成熟に驚く。高校生に歳時記一冊をのんだような季語の理解の深さと広さ。俳句の型の余白を広げ、おおらかに詠む。いやさらに、型を崩す「自由」の伸びやかさがある。今、序破急の「破」の時代。
【天】
戦争はキャンセル黴の風呂洗ふ埼玉 伊藤映雪
「キャンセル」の使用に驚く。今、ネットスラングでは「界隈」の表現を伴って、日常生活の当たり前の行動を止め、他者と共感し合う意を含む。作者の中では「戦争」がもう「前提」なのだ。その認識に肝を冷やす。直接の戦争がない日本の暮らしに安穏とするのではなく、間接的な不可視のそれを思う想像力を鍛えたい。その匂いが「黴」に象徴される。洗う動作とともに「キャンセル」「キャンセル」と繰り返し願う。
【地】
八月のサンパチに告ぐもうええわ大阪 国領柩
サンパチマイクは漫才の真ん中に立つ。ツッコミは戦争に対してか。酷暑か地震か大雨か。自然の猛威が激甚化する中で、人間同士は腹にすえなければ。蛇足ならざる戦争はなし。漫才の数くらい「もうええわ」と愚痴をこぼし、なお何度でも腹にすえなければ。
【人】
回遊魚夢にかへせる午睡かな神奈川 大地緑
夢うつつ、古今東西老若男女。一人ひとりの生きている時間の中に、こうやって詩が生まれては消える。人間は詩であると言ってよい。その尊さを、そして実人生の幸福を、侵すことのない世は来ぬか。
【入選】
氷砕く舌のぬめりや原爆忌八幡浜 福田春乃
立秋や彫るやうに書く頼信紙松山 広瀬康
白地図の全土を侵したる麦茶大阪 葉村直
猫又も手ぬぐひ仕立て踊りけり松山 小林浮草
にんげんの初速とごきぶりの初速大阪 ゲンジ
冷房の都が隠す室外機米国 爪太郎
東京は仮面の獣秋夕焼兵庫 山城道霞
レコードの無音の長く終戦日大分 舞句
挽肉へ晩年の皺強き夏愛知 紅紫あやめ
雷や古い家ほど深い風呂東京女子大 光峯霏々
諦めが味噌汁にふる貝割菜岡山 岩橋のり輔
冷酒の舌を均してゆくところ兵庫 石村まい
朝顔やずつと切れないこの電話神奈川 河埜スミヰ
薬効の閾値さぐるや青田風香川 長船絵里子
もうバスの来ないバス停秋の海大洲 坂本梨帆
網戸おして指のすこしが向こうがわ愛媛大 野上翠葉
進路希望言つてダリアにみづをやる大阪 土井あつあげ
歌舞伎町極暑警官路地を駆け京都 ジン・ケンジ
【嵐を呼ぶ一句】
施行日やトマトに塩をふる手とめ東京 桜鯛みわ
投稿の備考欄に「国旗損壊罪」をテーマにした旨を読む。どんな行動が罪になるのか。その線引きの難しさを象徴する一句。下五の表現に戸惑いがある。




