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青嵐俳談

公開日:2026.08.21

[青嵐俳談]神野紗希選

 今週末は第29回俳句甲子園が開催される。私がかつて見学して俳句のとりこになったのは第2回大会だったから、もう四半世紀以上も引き継がれてきたのだ。未知の俳句、未知の出会いが、きっと今年も。

 【天】

大夕焼吸いだこ白く剥がれけり静岡 海沢ひかり

 赤ちゃんのくちびるの吸いだこが、白く浮いて自然に剥がれる。一生懸命お乳を吸うからこその吸いだこは、生命力の証明だ。対置した壮大な大夕焼も、小さな命、ミクロの変化を大らかに包みこむ。

 【地】

夏蝶の黒の漲る樹幹かな神奈川    ギル

 中七の把握が主観的な感覚を立たせた。樹幹をゆたかに縫って飛ぶ揚羽蝶の、黒の艶めきが広がる。「漲る」の語の力強さも、夏の季節の張りを迸らせる。

 【人】

ほととぎすヒトは商品で合ってる?八幡浜  福田春乃

風薫る鏡の断面の翠東温   堀雄貴

 春乃さん、「違う」と答えたくても、現代の資本主義社会では、実際に人間が商品として扱われていると言わざるを得ない。古典の昔から夏を代表するほととぎすの声が、自然の奥から人類の今を照射する。雄貴さん、鏡の断面、たしかに明るく澄んだ翠色だ。別角度から気づいた細部が、世界を明瞭に輝かせる。

 【入選】

むぼうびな横顔に似てねむの花松山 板尾奈々美

白シャツに着替え不在者投票へ大阪府   ゲンジ

重力の綻びとして夏の蝶京都 ジン・ケンジ

塩ソフト舐めれば空の海っぽし松山   広瀬康

瑰や風にほどける砂の城松山  小林浮草

八月の火に飯盒の吊られけり北海道  柏木七歩

黒々とシュプレヒコール突如夏東京女子大  光峯霏々

完走の安堵に干ししソーダ水松山  一色大輔

浜木綿の花泣くやがて同じ朝大洲  坂本梨帆

折鶴や晩夏に窓は繋がつて岡山 岩橋のり輔

星を海を詩の指先に夏の蝶静岡  東田早宵

ひかりの切れた自転車を押す夜の秋専修大  野村直輝

告白と懺悔の合間グラジオラス京都    晩柑

地球磁場反転吾子の昼寝中千葉 平良嘉列乙

速報を閉ぢて麦茶を足しにけり広島大  大西美優

水筒へ麦茶水筒から麦茶神奈川   大地緑

やじろべえめく緑陰の体操着香川 長船絵里子

夏木陰途切れ校門遠ざかる伊予 曖昧もここ

紫蘇の葉でカエルが休み雨宿り今治 坂田季実子

祖母守る家や凌霄咲き誇る広島  加川遥日

 【嵐を呼ぶ一句】

白夜忌や数式ひとつ書き残し神奈川 河埜スミヰ

休講のベンチ、ガリレオ忌の風と東京  桜鯛みわ

天才も死は平等にガリレオ忌松野 川嶋ぱんだ

 東野圭吾さんの訃報を受け、「白夜行」やガリレオシリーズなど彼の作品の名を冠した弔句が寄せられた。スミヰさん、数式の答えは謎のまま。みわさん、涼風に吹かれ圭吾の本を読むか。ぱんださん、彼の書いたガリレオも彼自身も天才だった。死は平等と把握する冷静さも彼らしい。あらためてその死を惜しむ。

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