公開日:2025.01.17
[青嵐俳談]神野紗希選
今年の初買いはスープメーカーを。材料を入れボタンを押せば、自動でポタージュが出来上がる。林檎と薩摩芋、コーンと甘酒、牛蒡とトマト…。組み合わせがオリジナルを生む楽しさは、俳句の配合にも似て。
【天】
寒菊を束ねてこゑの季節かな茨城 眩む凡
毛糸編む君を神にはしないやう東京女子大 光峯霏々
眩む凡さん、「こゑの季節」のポエジー。万物が枯れ色も温もりも乏しいからこそ、命の気配としての声が世界を束ねる。霏々さん、神格化することで見えなくなるもの、失われるものも。君が人間のままでいるために、肉体を温める毛糸を編む。形而下の尊さ。
【地】
LINEだけ関西弁の人蜜柑早稲田大 盛武虹色
書き言葉は発話以上に意識的。LINEの文面に関西弁を選びとるのは、それがより自分らしいと思うから。普段は周囲に合わせているその人の、素の声を聞いたような嬉しさが、蜜柑の温もりに代弁される。
【人】
デウス・エクス・マキナや晦日蕎麦すする愛光高 飯本真矢
おほかみ寝る頃か鉄の禽空を神奈川 沼野大統領
真矢さん、デウス・エクス・マキナは、デウス=神のような絶対的な力で話を強引にまとめる(たとえば夢オチ)演出技法。一年の最後を年越し蕎麦で締め括れば、これもデウス・エクス・マキナかも。沼野大統領さん、前近代的な狼と、現代の鉄の禽=飛行機と。無機質で巨大な文明の底に、眠る狼の体温が灯る。
【入選】
保護猫の居間への一歩春隣東温 高尾里甫
みなとへの最終列車枯芭蕉東京科学大 長田志貫
半纏や液晶フィルム貼り直す松山 川又夕
カーナビに返したメリークリスマス西予 えな
年越しのマッサージ機に揺るる肉京都大 武田歩
柔らかな色鉛筆や冬休み四国中央医療福祉総合学院 坂本梨帆
指定校推薦組と雪合戦秋田 吉行直人
四十年を帰らぬ女児もゐて寝酒愛知 樹海ソース
はるかまで見通すものは冬芽のみ立命館大 乾岳人
年の夜の観葉植物ちょこんとす長野 里山子
死も何も何処へも波の花も吾も松山 広瀬康
黒き絵のラインストーン冬の星今治 京の彩
残る紅葉は心臓の展開図京都大 水野不葎
もういない人の表札クリスマス八幡浜 福田春乃
淑気満つひつかかりなき足裏撫で松山 若狭昭宏
真夜中の机に林檎犬吠えた愛媛大院 森川夏帆
父と呼びたき人とゐて蕪グラタン埼玉 伊藤映雪
星影を待ち寝酒せりホームレス北海道 爪太郎
スマホより粗忽の釘や置炬燵高知 豊哲
冬帝に会いに18切符買う大阪 家守らびすけ
【嵐を呼ぶ一句】
インフェルノあなたと生きて絵双六静岡 東田早宵
あなたと生きるこの世界は、烈火の燃えるインフェルノ=地獄のごとく、波乱万丈の絵双六のごとく。そんな地獄でも、あなたとなら、絵双六のように軽やかに超えてゆける、か。毒をも飲み下す愛の表明。