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青嵐俳談

公開日:2026.08.07

[青嵐俳談]神野紗希選

 松山の三津浜は実家の隣町なので、花火大会の夜は十分ほど歩けば道端から花火がよく見える。次々に今が花ひらき、どんどん過去になって消えてゆく。花火はめまぐるしく飛び去る時間を可視化するから、見ていてどこか切なく遙かな心地になるのかも。サンダルの指先を吹き過ぎた風の涼しさも、もう今は無い。

 【天】

えいえんの続きは有料さくらんぼ静岡 海沢ひかり

 永遠という遙かな憧憬も、資本主義に回収される皮肉。タイパや可処分時間、資本主義の対象は物質にとどまらず時間へも拡大する。さて、お金さえ払えば、永遠の続きが見られる? とりあえず、ここに圧倒的な今としてのさくらんぼが艶めいているのは、確か。

 【地】

炎天ヤ鴉ノ毟ル肉ノ赫京都 ジン・ケンジ

砲艦は鯨になれず夏の果静岡  東田早宵

 ケンジさん、片仮名交じりの表記に、非人間的な超越した響きが宿る。同時作〈炎天やブルジュ・ハリファの銀の鋭し〉の都市詠も華やか。早宵さん、戦争の道具の砲艦と、命そのものの鯨と。どんなに飾っても戦争は戦争。夏の終わり、鯨の平和と敬虔(けいけん)を恋う。

 【人】

日の丸の空疎七月十七日東温   堀雄貴

ビール干す母という字の非対称東京  桜鯛みわ

 雄貴さん、国旗損壊処罰法が国会で成立したのはこの七月十七日。何の日でもなかった日付を詠みこみ、社会の混迷を刻む。みわさん、非対称と言いつつもほぼ対称に見えるところが、母に求められる完璧さを思わせ、この句をより深くしている。母だってビールを飲んで、歪(いびつ)でいいから何とかやっていけばいい。

 【入選】

とりあえずとろろ昆布や河童の餌秋田  吉行直人

夏見舞水切りによき石もらふ東京  長田志貫

多機能のくせに扇風機の一途松山   広瀬康

涼しさやツモの間に食ふカレー千葉 平良嘉列乙

紫の供花と岬の麦の穂と沖縄  成瀬源三

梅干や女系皇統否定され東京  加藤右馬

万緑に警棒二本吊られおり専修大  野村直輝

ドレツシングのぶ厚き油朝曇北海道  柏木七歩

空蝉のうちがは黄泉よりも暗し大阪   葉村直

盂蘭盆の紙箱青きちんすこう京都大院   武田歩

息継のたび声援を聞く泳ぐ松山  一色大輔

夕立、わたしの聲が頼りないから大洲  坂本梨帆

少年に止まる樹海の秋蛍大阪   国領柩

麦軋む正しくなさにわたしたち八幡浜  福田春乃

油照ジンジャービアに赤ワイン新居浜 羽藤れいな

拍手より先に目が合ふ夏の宵松山  森美菜子

石よりもしづかに蜥蜴脈打てり神奈川 河埜スミヰ

闘魚闘魚政治家の役割は何埼玉  伊藤映雪

秋麗や大統領府総硝子三重 多々良海月

蜜柑食うとき透明の未成年熊本 夏風かをる

 【嵐を呼ぶ一句】

手をすこし木に接ぎてみて星涼し福岡   宇鷹田

 枝を木に接ぐように、手を木に接いだとしたら。人間と自然、私と外部の境界が曖昧になり、融和してゆく。その心地を「星涼し」がやさしく広げる。

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