公開日:2026.07.31
[青嵐俳談]森川大和選
飼育も宿題のうち。兄は蛍の幼虫10匹。発泡スチロールの箱にすむ。毎日1匹のカワニナを食べる。用水路から集めてくる。大きいと蛍を捕食するから、小さな貝をじっと屈んで取ってくる。食後の貝殻は蛍が隠れる。捨てられない。夜のリビングはエアーポンプの音に震える。箱をたたけば、何匹かが光って応える。
【天】
眠りたい蛍になった字を追えば静岡 東田早宵
「字」が「蛍」になる発想が素敵。しかもその「字」を追いかける。夢の入り口か。「眠りたい」のに眠れないという極限の苦しみに見る、夢うつつの狭間の変幻。「追えば」救いがある。導かれ、眠ればよい。
【地】
失恋をして仙人掌にまどろんで大阪 土井あつあげ
告白で振られたというよりも別れた失恋だろうか。その棘々した思いに「仙人掌(サボテン)」がやけに優しく共感してくれそう。思いを吐いて泣き疲れ、突っ伏して寝る両肩に、何も語らずじっと寄り添う。
【人】
九分咲きを誉められてゐる花氷神奈川 岡一夏
これは生花の「花氷」。まずは氷の涼を愛で、花の色合いや生け花のような空間配置を愛でる。そんな中で大輪の花の「九分咲き」を誉めたのだから、目の付け所が面白い。その少しずらしたあたりに俳味も。
【入選】
名字まで貰ふや弱き甲虫大阪 葉村直
疑似餌ころがる朝凪の浜にパグ東京 長田志貫
定説にパイナップルを書き加へ神奈川 ギル
言の葉を金木犀の香になくす大阪 国領柩
桃啜るきみのJAWSの黒きシャツ秋田 吉行直人
枝豆の逆に飛び出る知性かな愛知 柊琴乃
ラムネとぷとぷこの嘘がさいごだよ松山 板尾奈々美
蝿叩くけふに読点打つやうに千葉 平良嘉列乙
河童忌や皺を持たざる遊具の象大阪 未来羽
ハンカチや駅のホームで飲む薬大洲 坂本梨帆
火山てふ地球のにきび南風大阪 ゲンジ
地底に火地上悉く夏野北海道 柏木七歩
転けて付く手に夏庭の温みかな松山 一色大輔
薬降るわすれることだけはとくい専修大 野村直輝
行列のメンチカツ谷中の風鈴長野 里山子
面接を終へてトマトの皮一枚東京 岩本遥
八月に配線絡み捩れ撚れ埼玉 東沖和季
缶切りで開けるツナ缶終戦日京都 ジン・ケンジ
反論の引際として誘蛾灯大阪 高遠みかみ
ヨット去るその水に名をやってから愛媛大 野上翠葉
白鷺の切り取り線のやうに佇つ松山 小林浮草
【嵐を呼ぶ一句】
熟れる意味考へてゐるバナナかな福岡 宇鷹田
物事の「意味」なんて、考えるほどに苦しくなる。エチレンに窒息し、全身が黒い斑点に覆われてゆくバナナの悲壮が、シュールでおかしい。季感まで効いている抜け目のなさが、この句をより滑稽にする。




