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青嵐俳談

公開日:2026.07.24

[青嵐俳談]神野紗希選

 〈年毎の二十四日のあつさ哉 菊池寛〉は今日のこと。芥川龍之介が自ら命を絶った忌日が7月24日、俳句ではその作品名から「河童忌」とも。大暑のころの極まる暑さのたびに亡き友人を思う、追悼句だ。汗をかき鬱屈を抱え、その人の忌日を今年も生きる。

 【天】

カーテンは柔き絶壁風死せり三重 多々良海月

 風がやみ、カーテンが強い陽をはらんだままピタリと静止している。そのさまを、柔らかな絶壁だと美しく言語化した。次の風まで世界と私との回路は、柔らかく決定的に断絶する。そのにべもなきまぶしさ。

 【地】

痺れたる頬シムス位の昼寝なり静岡 海沢ひかり

ひのまるを踏まずにおいでかたつむり八幡浜  福田春乃

 ひかりさん、シムス位とはおなかの大きい妊婦さんが寝やすい姿勢。上半身はうつ伏せなので、昼寝から覚めたら押し当てた頬が痺れていたのだ。妊娠中の歪な体感のリアルが写し取られた。春乃さん、「国旗損壊罪法」が成立した。問題視されるのは、処罰対象の定義が曖昧なため、恣意的な運用の可能性もあること。かたつむりが国旗を踏んだら、罪? 日の丸の太陽とかたつむりの雨と。自由が干乾びませんように。

 【人】

熱帯魚自画像隠す布白し東京  長田志貫

飛魚の輪廻に入れてもらおうか松山   川又夕

 志貫さん、白という潔癖で隠された自画像の混沌。熱帯魚は鮮やかに、その外部を泳ぐ。夕さん、勢いよく跳ねる飛魚の輪廻に入るには、私もエイッと気合が要りそう。巡る命が剥き出しになっているひとところとして、飛魚がきらきらと今を滑空する。

 【入選】

夏ぐれや島の四方の果てまで壕神奈川   大地緑

彗星は掠れ蝉時雨に覚めて埼玉  東沖和季

一世紀もたない平和ビールぬるい同  伊藤映雪

平板な蜥蜴の呼吸memento mori愛知   柊琴乃

ふにゃと割る冷し鯛焼なるものを松山   広瀬康

乳液に光めく顔や遠花火東京  桜鯛みわ

蓮池や詩になりたがる万のこゑ北海道  柏木七歩

シナプスの焦げゆく臭い蝉時雨京都 ジン・ケンジ

髪洗ふ涙をみせておけばと思ふ東京   岩本遥

ゐもりひつくり返せば腹に蟻蟻蟻愛媛大  七瀬悠火

手をつなぐ父も向日葵も逆光東温   堀雄貴

乳はぬちぐすい子に母に夕涼長野   沢胡桃

夜は原初不安のかたち百合ひらく静岡  東田早宵

遠雷やポテチの袋モノクロに兵庫  山城道霞

水源や滴る山の風の潤い大洲  坂本梨帆

魔法使い/魔法使われないプール松山 板尾奈々美

曖昧な採点基準アマリリス大阪  辰巳電柱

新品のスキャナー詰まる今朝の夏兵庫    翔龍

夏の宵漬物石は第七版伊予 曖昧もここ

 【嵐を呼ぶ一句】

噴水をきれいな税金と思う秋田  吉行直人

 「きれいな税金」というパワーワード。公共スペースの噴水なら税金が原資なので、まさに。そう捉える心理の奥には、税金を納める側の生活不安が匂う。

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