公開日:2026.07.17
[青嵐俳談]森川大和選
近所に青葉木菟の棲むセンダンの巨木がある。6月初めの台風で大枝が一本折れた。地域の子は悲しんだ。樹の様に驚き、梟(フクロウ)も去ってしまった。また悲しんだ。2週間後に舞い戻り、くりくりとした眼で今も息づく。まちがまた全きを得て、呼吸する。
【天】
耳打ちは最古の便り青葉木菟神奈川 ギル
耳打ちは、こっそりと2人で濃密に。他者と一線を画する特別なつながりを象徴する。それを「最古の便り」と断定した感性がある。「青葉木菟」もまた、形而上の存在が遣わした「便り」かもしれない。
【地】
有限の世を駒草が占めてゐし東京 加藤右馬
「有限の世」にしらがみの絶えない俗世を思わせ、そこから高山植物の女王と呼ばれる「駒草」の可憐な赤ピンク色の花々へ飛躍させる。下五にも技あり。生を謳歌する「駒草」の無垢な喜びがある。
【人】
父の日の光に伏せしパフェグラス八幡浜 福田春乃
きっと家族がパフェ好きの父のために果物を切り、アイスクリームなどを乗せ、鮮やかに盛ったのだろう。父の日を満喫した幸福感。洗い上げた水滴が光る。
【入選】
幹と樹皮分かれ流るる出水かな京都大院 武田歩
足跡が足りない箱庭の浜辺大阪 葉村直
果肉みな海をたづさへ夜の秋兵庫 石村まい
しんがりを涼しく歩む岬かな松山 一色大輔
先祖代々職を転々ソーダ水秋田 吉行直人
風鈴やいつかの思い出し笑い大洲 坂本梨帆
薫風やドラムスティック奉納し三重 多々良海月
猫の名はメランコリーや罌粟の花東京 長田志貫
レールの上を魚影のごとくつめたい百合和歌山 日塔朋記
未決済書類抱へて夏の月松山 川又夕
餡蜜や誰が磨きしハイヒール米国 爪太郎
蜘蛛の囲の太き糸よりはづしけり松山 小林浮草
美しくもがけばクロールのかたち千葉 平良嘉列乙
山百合のやまひ蔓延し続ける埼玉 東沖和季
女梅雨淡々と告ぐ余命かな今治 京の彩
触れるな蟻を次々潰す指先で静岡 東田早宵
蟇戦争できる国へ一歩埼玉 伊藤映雪
団欒に置いてけぼりの心太東京 桜鯛みわ
夏暁やくんと墨吸ふ硝子ペン東温 堀雄貴
入梅や日付を書けぬ辞職願大阪 辰巳電柱
さくらんぼまづは独身証明書神奈川 大地緑
あぢさゐの青の点描産後かな愛知 唐沢うに
【嵐を呼ぶ一句】
炎帝の死角へバックヒールパス松山 広瀬康
今年のサッカーW杯日本対チュニジア戦の前半4分、鎌田選手が先制点を決めたシーンを思い出す。時にパスによる急襲もありなん。「炎帝の死角」という表現から鮮やかなプレーへの熱狂と賛辞が見える。




