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青嵐俳談

公開日:2026.07.10

[青嵐俳談]神野紗希選

 息子は小学3年生の7月8日に突然、一人称を僕から俺に切り替えた。〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 俵万智〉に準じれば、七月八日は俺記念日、だ。俵万智には〈最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て〉という歌もあるが、たしかに最後の「僕」を思い出せない。

 【天】

蚯蚓裂かる鳩の涎に濡れながら京都大院   武田歩

 日常の片隅で鳩の啄む蚯蚓の最期。裂かれるのも涎に濡れるのも、なまなましく命をむき出しにする。

 【地】

滝までを滝見し人と行き交へる松山  一色大輔

ホログラムのきみはゼリーをこぼさない秋田  吉行直人

 大輔さん、滝を見て来た人の表情は輝いているか、疲れているか。事実を淡々と述べながら、静かに期待も高まる。直人さん、実体を持たない寂しさを、ホログラムとゼリーの透明なきらきらが輝かせる。

 【人】

時の日の靴紐むすぶためほどく愛媛大  七瀬悠火

反抗期また焦げ臭い扇風機兵庫    翔龍

 悠火さん、靴紐を結び直す無意識の瞬間、生の時間は有限だとふと思う。翔龍さん、使いこんだ古い扇風機。反抗期の焦燥を「焦げ臭い」匂いが代弁する。

 【入選】

花いばら首を傾ぐる陶の犬松山  小林浮草

首に蛇巻かるることも一人旅東京  長田志貫

永遠てふ嘘に飽きたり夏の海京都 ジン・ケンジ

紅生姜地獄のやうに盛る我鬼忌松山   広瀬康

火を灯す小舟にすこし黴。わけあう愛媛大  野上翠葉

同性愛違法の国を行く跣大阪 高遠みかみ

新樹光いきいき子規の生家跡八幡浜  福田春乃

フルーツポンチめいてプールの生徒らよ東温   堀雄貴

羊水へパイナップルの甘さ満つ静岡 海沢ひかり

木肌剥き出しのギターや夏嵐香川 長船絵里子

ハルキゲニアめく日盛りの聖遺物愛知  唐沢うに

写真立てにポストカードや涼しき夜兵庫  山城道霞

疑似炎天作る恋愛ゲームかな大分大院  鶴田侑己

いつか野を侵す瀑布として垂るる名古屋高   冨田輝

八月の補助線デモも警官も千葉 平良嘉列乙

鮫の歯落ちて武器商人たちの夏岡山 岩橋のり輔

ねぢ花の渦よふつうになれたなら鶯谷高  川崎雅怜

紫陽花はゐない高輪ゲートウェイ新潟  コンフィ

アイスティー飲む太陽は加速して兵庫  前田真枝

疲れても泣いてもペンを手に蛍静岡  東田早宵

 【嵐を呼ぶ一句】

金塊思念体ともども牛馬冷しけり和歌山  日塔朋記

 サッカー漫画「ブルーロック」はルビが特徴的で、カタカナ語をルビとして漢字をあてる表記が多用される。「ジャグリングショット」を「空中曲芸砲」、「ジャンピングターン」を「跳躍回転」と記すのは、カタカナ=外来語の響きのかっこよさと漢字という表意文字の迫力とを、同時に引き込めるからか。この句も「金塊思念体」と造語的に漢字をあてることで、イメージが強く迫る。「牛馬冷す」の古い季語も、ゲームの牧歌的な文明造形とよく合い、現代に生まれ直した。

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