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青嵐俳談

公開日:2026.06.05

[青嵐俳談]森川大和選

 多肉植物店へ行った。子らは消化液をたたえたウツボカズラに夢中。黄緑の袋に這う暗褐色の模様がまがまがしい。4、5本分のワインが入りそうなデキャンタ型の花瓶を包んでもらった。蛍の舞う夜を掬い取り、それを吹き膨らませた色と柄。あとはここに差し収めるべく、大玉となる紫陽花の佳境を待つばかり。

 【天】

餡蜜やゴッホの生涯を知らず八幡浜  福田春乃

 生涯を知らずとも、名は知っている。生前の貧しさや精神的な病まで知らずとも、何枚もの自画像や「ひまわり」は知っている。食べ進めるうちに濁る餡蜜のシロップの渦が「星月夜」のうねりと共鳴してくる。

 【地】

筒姫の袖をたゆたふ花藻かな松山  小林浮草

柏餅晴たる淡路島の色兵庫 染井つぐみ

 夏は筒姫。大地の色彩を羽織る神の描写が巧み。水の透明感、藻の花の可憐な清涼感がよい。後者、子孫繁栄を象徴する一菓の形容に、淡路島の一望を取り合わせることで、国産みのめでたさが加えられる。

 【人】

御嶽海今日は勝ったとハンモック長野   里山子

 長野出身の人気力士御嶽海。幕内優勝を飾った全盛期の突き、押しのスピードが印象的だ。句はハンモックの穏やかな明るさがよい。庭先かキャンプ先か。ラジオ中継の結果を声で喜び、家族に聞かす。

 【入選】

鬱に臥す我は切り株さみだるる大阪   未来羽

灯台は夢のそとがは明易し兵庫  石村まい

おしゃべりなスマホあんぐりとした鮎東京女子大  光峯霏々

息継ぎに蒲公英の絮吸ひにけり専修大  野村直輝

天の川おばぁにならう子守唄大阪   国領柩

まづ小腹満たして入る踊の輪京都大院   武田歩

ジャコメッティの細さよ代田歩むとき愛知  唐沢うに

金髪のをとこが触れてゐる新樹大阪 土井あつあげ

青嵐封泥に捺すヘラクレス三重 多々良海月

ミント浮くフィンガーボウル聖五月京都 ジン・ケンジ

食用花ほんのり苦し鳥交る東京 山野ゆかり

蛇睨むような流木すべりひゆ愛知 紅紫あやめ

五月雨や燃え盛りたるタンドール神奈川 河埜スミヰ

死ぬための掟に渇く夏の蝶静岡  東田早宵

三角の窓を斜めに金亀虫大阪   葉村直

白靴や小高い丘の志望校神奈川   大地緑

五月雨はごめんくださーいの調子で大洲  坂本梨帆

若者の特権つまるレモン水今治   京の彩

若葉してタピオカラーメンに行列新居浜 羽藤れいな

夏来たるセピアの街の愛玉子岡山 岩橋のり輔

 【嵐を呼ぶ一句】

夏は夜昼なんか外出れないし千葉 平良嘉列乙

 『枕草子』のパロディと言えば〈春は曙そろそろ帰つてくれないか 櫂未知子〉だが、この句はまた別の角度から意味を外しにかかる。その面白さも束の間、迫りくる夏への危惧に、最後は汗の真顔となる。

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