公開日:2026.06.26
[青嵐俳談]神野紗希選
小学生の息子に話しかけたら「ちょっと待って。考え事の点が線になりそう」と遮られた。何を考えていたのかは知らないが、言語化がうまくなって驚く。
【天】
アイスクリームこころは永久に秘匿静岡 東田早宵
「永久」「秘匿」の強さが、心は人に見せまいと決めた覚悟を深く刻む。が、凍ったアイスクリームも溶けるから、秘匿したくても溶け出してゆくのかも。とどめがたい心の熱量。同時作〈泣きたくてハンカチをこぼれた彗星〉も、彗星の軌道が涙めいて清らかだ。
【地】
オリーブの葉の銀色や更衣長野 里山子
人生や勝手に閉まる冷蔵庫大阪 ゲンジ
山子さん、オリーブの葉を銀色と把握し、その涼しげな光りようを表した。更衣がさらに涼しく、風が葉も裾もそよがせる。ゲンジさん、冷蔵庫が勝手にぱたんと閉まるさまと重ねることで、立派な印象の「人生」が、あっけなく滑稽なものとして感知される。
【人】
花は葉に友はすっかり差別者に八幡浜 福田春乃
アーティチョーク剥いてこの世で待ち合わせ広島大 大西美優
春乃さん、久しぶりに会った友人は、考え方が極端になり、差別的な発言も隠さない。「花は葉に」のうつろう平熱が、その人との心の距離を淡々と伝える。同時作〈五月雨やパンは人権より安い〉の皮肉もいま受け止めるべきものだ。美優さん、アーティチョークは、花の蕾のような春野菜。俳句的に新しい素材が、「この世」で出会う生者の時間を輝かせる。
【入選】
阿蘇晴れて草原で食う蕎麦アイス大分大学院 鶴田侑己
海のいろ濃し蜜豆の蜜旺ん大阪 土井あつあげ
釣堀や着信が尻震はする神奈川 岡一夏
薔薇園へ入る反対のプラカード愛知 紅紫あやめ
劇場や泰山木の花薫る兵庫 山城道霞
嘆くごと氷生み出す冷蔵庫静岡 海沢ひかり
倍速のドキュメンタリー桜桃忌大阪 辰巳電柱
林間学校真昼の天井の昏し東京 樹海ソース
死にたがる海詩になりたがる海月北海道 柏木七歩
タスマニアデビルのやうな夏だらう兵庫 杉浦萌芽
蛍ぽぽ何に緊張していたの大洲 坂本梨帆
いつまでも海月を見てられるふたり松山 広瀬康
紫陽花満開予土線の沖田さん松野 川嶋ぱんだ
「先生」と初めて呼ばる早苗月立命館大 乾岳人
インプレッション高さうな立葵だね千葉 平良嘉列乙
サイダーと倉庫とモーターショーと歌愛知 しばたけん
水中花しづかに家を疑へり東京 灰島りんこ
夏草や兵器を積んで飛機の腹埼玉 伊藤映雪
朝焼の充つや樹上のアリクヒに三重 多々良海月
【嵐を呼ぶ一句】
君が代を歌はぬ罪や秋の蝉愛媛大 野上翠葉
国旗損壊罪が検討されている今、国歌斉唱を拒めば罪になる未来も遠くないのでは、と憂う。かつての戦争を思う八月、思想の自由の静けさに蝉の声が響く。




