公開日:2026.05.15
[青嵐俳談]神野紗希選
玄関先に植えたブルーベリー、夏に実がなるのも嬉しいが、花も可愛い。鈴蘭のような色かたちで、花の根元が淡い空色。今年は何粒、収穫できるか。
【天】
藤の花絶望って二百色あんねん八幡浜 福田春乃
モデルのアンミカの発言がもとのネットミーム「白って二百色あんねん」を下敷きに、絶望も多種多様だと提示、深い孤独を諧謔で抱きとめた。藤の紫の陰影が絶望の色を可視化する。同時作〈店員の語尾の伸びやか今日芒種〉も時候の感覚を日常から引き出した。
【地】
ネモフィラや溺るるやうな産褥期神奈川 河埜スミヰ
風光るあるいは風のほか翳る大阪 葉村直
スミヰさん、産褥期の満身創痍でいっぱいいっぱいの苦しさを「溺るるような」と比喩。ネモフィラの淡いブルーが、ほのかな癒しとも、寄る辺なさとも見えて。直さん、「風光る」という季語を反転して捉え直した。隠されていたこの世界の翳りがそよぎ出す。
【人】
地獄絵に若者のをり雲雀東風京都大院 武田歩
吾を王として流氷の集まり来東京 加藤右馬
歩さん、鋭い発見。彼の半生と、その先の永さと。雲雀東風が、地獄と対比をなしつつ若者のみずみずしさも引き出した。右馬さん、流氷の寄せる高揚。民としての流氷、その王としての吾の、諧謔と孤高よ。
【入選】
朝は忙しい薊は眠いらしい兵庫 西村柚紀
王将も歩も同じ箱春の星大阪 ゲンジ
滴りにひらかれている幻肢痛松山 板尾奈々美
いくぢなし野あざみくらゐ越えてきて同 小林浮草
刷り立ての香りのレジュメ曹達水同 一色大輔
「夏来たね」「来たね」ミサンガ結び合う東京 桜鯛みわ
夏近し机のなかに手をいれて京都 宇鷹田
がんばる蛾がんばらない蛾へだてし窓熊本 夏風かをる
砂底の真闇を短夜と思う埼玉 東沖和季
廃校のピアノの中に眠る蛇京都 ジン・ケンジ
レクイエムラジオで聞きつ梅を干す東京 岩本遥
鳳凰に羽音なかりき春の夢大阪 未来羽
緑の夜鋏は泣きながら進む茨城 眩む凡
花散るまぶたをとじてこの世が夢じゃない静岡 東田早宵
黒南風と白南風 隙間から 燕松野 川嶋ぱんだ
黄塵万丈たましひ未完でも磨く岡山 岩橋のり輔
胎動を待ちて食細りゆく春兵庫 佳子
共感を脱ぎ捨て夏の川ひかる東京 岩本遥
朧なり絵文字なき文面の意図今治 京の彩
地図上は営業中で島のどか大分大院 鶴田侑己
コミセンで働く父のアロハシャツ愛知 ひでりん
アスパラの身長比べ背伸びして今治 坂田季実子
【嵐を呼ぶ一句】
VRゴーグル置いて驟雨かな兵庫 山城道霞
没入したVRの世界の余韻を引き継ぎつつ現実感覚を呼び覚ます季語としての「驟雨」の揺るぎなさ。




