公開日:2026.05.22
[青嵐俳談]森川大和選
〈この麦のどれも銃身かもしれず 谷雄介〉麦は生命をつなぐ。ホスチアは教えをつなぐ。一方、貨幣を介すれば、命を救う麦でさえ、命を奪う銃に換わる。
【天】
武器輸出決まる満員電車の春埼玉 伊藤映雪
売り渡す兵器も春のこの空も
風船を手放す武器を売る国に
4月21日、日本政府は殺傷能力のある武器輸出の原則解禁に踏み切った。直接戦わずとも、武器の輸出はどこかの戦争を助長する。その重みに耐えかねて軋む三句。一句目はネット記事を見たときの衝撃か。二句目は平和と安全への憂愁。三句目は「武器を売る国」と皮肉する。そこで手放した「風船」とは。
【地】
イカロスの姿ごうなは見たろうか松山西中等 松本奈々
その砂は先ほど鳴いてゐた亀です大阪 葉村直
ごうなに亀の軽み。前者、イカロスの悲劇を思わせつつ、それを裏切るヤドカリが効く。確かに宿は奪い合うが、超然と走る磯のごうな。後者、「亀鳴く」の俳味をいぶしながら、一握の砂と化した亀に啓示めく尊さを与える。そしてその意味を、うさん臭い口語表現によって一蹴する。意味を二度裏切る。
【人】
海と手の繋がつてゐる夜釣かな京都大院 武田歩
夜釣りは風や波の音が近い。他と遮断された一個の内省的な存在となる。当たりを待つ間も意識は手先に集中する。竿と糸を介し、闇を鳴らす海が来るぞ来るぞと応えてくれる。中七は言えそうで言えない措辞。
【入選】
犬のふと山懐かしむ穀雨かな八幡浜 福田春乃
春の湯や乳児に臍を突かれおり長野 沢胡桃
てんてんはんそく夏蝶に触れしより茨城 眩む凡
合歓咲きぬ閃輝暗点の中にまた米国 爪太郎
流氷は海の大きな恋ですね名古屋高 冨田輝
スペインの貌をつくって午睡かな愛媛大 野上翠葉
深海の色なる喪服アイスティー松山 一色大輔
滴りや手骨のそれぞれに名前京都 宇鷹田
八十八夜小川にあをき手をひらく松山 小林浮草
水禽の夢のおもてに五月来る兵庫 石村まい
はつなつの抄訳として遅い風大阪 高遠みかみ
憲法の日や虚ろより万国旗神奈川 河埜スミヰ
板チョコの溝の直交こどもの日同 岡一夏
揚げパンのきな粉の飛距離昭和の日松山 広瀬康
谷根千に伸びきる影や春は雨東京 長田志貫
ミニカー並ぶ上がり框や夏近し香川 長船絵里子
小満や通勤客のヌーの貌千葉 弥栄弐庫
せんせいは怒ると敬語パイナツプル北海道 柏木七歩
黒南風や海震はせる貨物船兵庫 染井つぐみ
【嵐を呼ぶ一句】
離婚して減らす肩書き冷奴大阪 ゲンジ
妻又は夫の肩書を下ろせば「冷奴」ほどさっぱりするものか。清々しいほど後悔がない。明るさに滋味。




