朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2026.04.24

[青嵐俳談]森川大和選

 「中学生の頃、公園でトカゲの子を拾ってきたことがあった」「コカコーラの瓶に入れて育てていたら、だんだん大きくなって出られなくなっちまった」とは、寺山修司のアフォリズムである。

 【天】

ねえムーミン国を捨てたらどこから夏兵庫  石村まい

 上五はアニメ「ムーミン」の主題歌の冒頭部分。もじもじとするムーミンを励まし、こっちを向くように促す歌詞。句は「国を捨てる」という選択肢への気付きと、アイデンティティーを失う迷い。「夏」と詠めば、日本も含む。世界には戦争や貧困による不如意、政治への不信を抱く人も多い。その不穏さと身の置き所のなさをあどけない歌詞に乗せて、ひたと感じさせる。

 【地】

空き容器へ春の宇宙語吹きこむ子長野   沢胡桃

入学やホイップの角ぴんと立つ静岡 海沢ひかり

 子の全存在を受け止める、この幸福な肯定感。前者は新芽沸き立つ生命力の「春」が合う。「宇宙語」の把握も納得できて、おかしい。後者はお祝いのケーキ。「角」は式当日の朝の直してやった寝癖かも。またはその子本人の期待に満ちたアンテナの立ち方かも。

 【人】

アスパラガスになっても分からないよ松山 板尾奈々美

 執着にいら立つ独白か、諦観による穏やかな諭しか。前後の文脈を捨象した「切り取り」が意味の把握を拒む述べ方が面白い。表現の余白を最大限に広げ、読者の読みの分量を信じる。読めば最後に、しなり、香る、アスパラガスの質感が際立ってくる。

 【入選】

耳鳴りのやうにミモザが降つてくる愛知  唐沢うに

どつちみちあなたは好戦的な菫岡山 岩橋のり輔

獣にも魚にもなれず蛇泳ぐ東京  桜鯛みわ

桜蕊降る退屈な手長猿大阪 家守らびすけ

カタヌキのやうに眠りぬ夏近し熊本 夏風かをる

花満ちて我が身すみずみまで暗渠茨城   眩む凡

紙の音ひろうマイクや離任式千葉 平良嘉列乙

垂直に鳴くペンギンや春深し大阪   葉村直

燃え尽きし絶交の文雪柳神奈川   大地緑

試し書きみたいな会話四月来る松山西中等  松本奈々

戸の閉ぢて猫の住む家普賢象愛媛大  田外美緒

花疲れ柔軟剤の酸つぱき香埼玉  伊藤映雪

卒業やお水の母の薄化粧京都 ジン・ケンジ

桜散る真ん丸キムチチャーハンを大分大院  鶴田侑己

振り向けば急な参道よもぎ餅兵庫  杉浦萌芽

ビル街をゆく巡礼や春の風熊本  貴田雄介

纏ひたる蛇の短き涅槃像東京  加藤右馬

春星や胸元濡るる磨崖仏京都大院   武田歩

眼球に浮力のかすか初蝶来鶯谷高  川崎雅怜

 【嵐を呼ぶ一句】

受難日の躰を電気風呂に解く松山   広瀬康

 キリストが身を賭して十字架に磔となった日に、同じ格好で風呂にくつろぐ主体。なんとも不謹慎だが、その卑近さが俳味を際立たせる。「電気」にも小技あり。

最新の青嵐俳談