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青嵐俳談

公開日:2026.04.10

[青嵐俳談]森川大和選

 どの集合写真を見ても、矜持を湛え、天真爛漫に歯を見せて笑っている。「小柄で髪が縮れ、目がキラキラと輝いていた」「美声の持ち主で、独唱、詩吟、浪花節が得意だった」「ゲーテやバイロン、ハイネの詩をよく読んでいた」「負けず嫌いで、言いたいことは上級生にも言い切る芯の強い人だった」―。何と濃く、すばらしき青春か。ひめゆり平和祈念資料館に刻まれたこれら一文一文に、犠牲となった学徒隊一人ひとりの青春の在処。

 【天】

国破れて有平棒の回る春北海道  柏木七歩

 杜甫の「春望」を借りた一句。今も世界に戦火が絶えない。句は「山河在り」とは続けずに、理容店のサインポールを回す。髪を切り、会話が繋がり、涙を拭い、励まし合う。戦後復興一号店の逞しさを思う。

 【地】

飛花落花ノルマントンは今も海三重 多々良海月

 後に不平等条約改正に繋がった明治期の英国貨物船沈没事件。堰を切ったように、枝の切っ先を飛び立った花びらが、無数、今も海に眠る御魂を慰めている。

 【人】

極刑は蝶になること春の夢大阪   葉村直

アメーバの核の見ている春の夢松山   広瀬康

 難題「春の夢」。蝶になる極刑ならば望むところ。上五の措辞が秀。後者も「核」の語で甘さが締まり、秀。夢の内容は何も描かず、アメーバの気分にさせる。

 【入選】

生肉のやうに鶯餅を切る京都大院   武田歩

雉の脚縛り音楽室は荊棘の森和歌山  日塔朋記

わたくしの仰臥びっしり仏の座埼玉  東沖和季

Saturnのturnあざやか彼岸潮兵庫  石村まい

さびしらに橋曳く海や桜まじ岡山 岩橋のり輔

歯を持たぬ鳥あはれむや梨の花米国   爪太郎

長湯して花種蒔きし夕べかな松山  小林浮草

卒業のロビーで話しそれっきり八幡浜  福田春乃

ポニーテールをぶんぶん振つて卒業す新潟  酒井春棋

長閑さや深夜パルフェと降雨量新居浜 羽藤れいな

失恋の数だけ金柑を齧る大分大院  鶴田侑己

布団四分の一周終着はママの腹長野   沢胡桃

臍の緒のような白煙風光る兵庫 染井つぐみ

通学帽みなたんぽぽになるこみち熊本 夏風かをる

木の芽風体操着から名の消へて岐阜  島田砂光

ミモザの樹抱いて頼られミモザの黄大洲  坂本梨帆

虎杖や見つめたままじゃ動けない愛媛大  七瀬悠火

すてきな寒葬やZYPRESSENいちれつ愛知  唐沢うに

 【嵐を呼ぶ一句】

入社認めます心の栓はしましたか東温   堀雄貴

きづかなきゃきずつかなくちゃ春日傘松山 板尾奈々美

 恐ろしい二句。前者は入社式の社長挨拶や祝辞等を聴いて、脳内に変換された言葉だろう。新入社員の抑圧的な心理に世相が透ける。後者もまた過剰に適応しようとする倒錯した心理を詠む。春日傘が痛々しい。

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