公開日:2026.05.01
[青嵐俳談]神野紗希選
今日から五月。寺山修司は〈目つむりていても吾を統ぶ五月の鷹〉と詠み、己の理念を鷹に託した。心を定めれば詩も据(す)わる。あなたを統(す)べるのは、何?
【天】
自己愛は怠惰の起源こいのぼり松山 一色大輔
自己を愛すれば怠惰にもつながる。怠惰を悪と決めつけない「こいのぼり」の配合がアイロニカルにして健やか。同時作〈メーデーの椅子に掛けたる背広かな〉も秀句。背広に視点をそらせば顔が見えない。システム化された現代社会の労働者の無名性が浮き彫りに。
【地】
ティンパニに王の面持ち夏近し兵庫 石村まい
それはぴらかんさ汽笛に目がひらき茨城 眩む凡
まいさん、ティンパニの堂々とした佇まいを「王の面持ち」と据えた。夏を知らせる一打を待つ高まり。同時作〈火を点けるために火が要る抱卵季〉も命の繋ぎ方を捉えた世界理解が鋭い。眩む凡さん、冬にどっと小さな赤い実をつけるピラカンサ。汽車のゆく荒涼に赤の鮮烈が閃く。同時作〈さんぐわつはとらんぽりんとかんがへる〉〈とことはにたらぬことのははるのかは〉も仮名表記で言葉の意味を剥離し組み替える。
【人】
春燈のポトフ収めるつわりの胃愛知 渡辺桃蓮
竹刀担いで佐保姫に会いにゆく京都 宇鷹田
桃蓮さん、春燈のやさしさも体に容(い)れる。「の」の助詞の活用が巧み。宇鷹田さん、竹刀の荒々しさと佐保姫のたおやかさの配合。新たな神話を見るごとし。
【入選】
魚は氷にいまはピアノの弦のうへ愛媛大 飯本真矢
向かひあふ上は文語のやうな藤同 野上翠葉
花の門通るに許可を得てもなか松山 広瀬康
ろうそくに火があり薔薇の夜になる同 板尾奈々美
閉ぢられて本の厚さよ春の雷松山 近藤幽慶
人類は月へいそぎんちやくうによによ千葉 平良嘉列乙
花散るや伊予に浄土寺極楽寺東温 堀雄貴
葬儀屋の手袋白き四月かな松山 小林浮草
追憶の桜よ一秒の重さ大洲 坂本梨帆
鍵束を皿に盛りたる暮春かな和歌山 日塔朋記
賃貸やギターは銃に似て四月愛媛大 七瀬悠火
塩で食ふ免許合宿所のレタス北海道 柏木七歩
毒親に君はなるなよ孕み鹿山形 伊藤ペンタ郎
瞬膜に三億年の春の雨東京 山野ゆかり
白靴みんな死ぬための息じゃない静岡 東田早宵
断絶やヨルダンの壁陽炎へり静岡 海沢ひかり
春の夜の眠気無味無臭のあくび済美平成 川口心実
致死量のしやぼん玉浴びをとなになる岐阜 島田砂光
桜別つあの人は今異国の地聖稜高 田村咲晴
遠い方の郵便局がすき躑躅兵庫 杉浦萌芽
【嵐を呼ぶ一句】
来世は子猫こゝろにエリザベスカラー愛知 唐沢うに
喉仏来世決まらぬまま風船東京女子大 光峯霏々
輪廻転生の思想に現代の実感を盛った。うにさん、傷ついた心を守るエリザベスカラー。霏々さん、喉仏をもつ体へ分化する前の無垢を、風船に託した。




