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青嵐俳談

公開日:2026.03.27

[青嵐俳談]森川大和選

 沖縄県南風原町に着く。同町文化センターの建つ小高い丘の斜面には、かつて長短30近い地下壕が人力で掘られ、陸軍病院として使用された。当時の炊事場から公開中の第二外科20号壕まで、約500mを辿る。ひめゆり学徒が往来した「飯上げの道」だ。熱帯の樹の根が浮き出た急坂。砲弾の中を走る久遠。この日は雨。壕内は咽る湿度。空気が白濁する。風化の進む剥落や落盤の跡も。手術場だった壕中央の十字路に懐中電灯を消す。黙の久遠。闇の中、臭いや声を探す。

 【天】

海に椅子おのおの運ぶ卒業後大阪 高遠みかみ

 「卒業後」といっても、卒業式の悲喜こもごもの臨場感が残る直後の時間、またはその期間。島の学校はいつも海が傍にある。原風景になる。その眺望のよい所へ椅子を運ぶ。卒業後のお決まりなのかも。各々は何を思い出すか。それも束の間の特別な時間。

 【地】

島ふたつ繋ぐ海底花のころ大阪   葉村直

 島間の浅い海底。産卵を控えた婚姻色の魚が残影を輝かせている。春の明るい海面の妙。島の輪郭を押し広げ、零れんとする花万朶のピンクが映る。

 【人】

自由とは決起のやうな蕗の薹神奈川 河埜スミヰ

 一つあれば幾つも見つかる蕗の薹。それが自由を問わねばならぬ生活の中、自分の生き方を決意させる。

 【入選】

囀や三叉に巻けるジェノベーゼ松山   広瀬康

焼海苔を缶より抜きてその光兵庫  石村まい

春灯をあつめ詩を書くときひとり同  西村柚紀

溺死の蝶それも脂臭い銅貨三枚和歌山  日塔朋記

紙雛や子を授からぬまま而立埼玉  伊藤映雪

吊し雛揺れて空爆遠からず愛知  渡辺桃蓮

春の昼戦火の映るテレビ消し静岡 海沢ひかり

水仙の口のまつたき無条件神奈川   大地緑

蒲公英や都内をブルーインパルス兵庫  山城道霞

春は尽く散り散り光りデブリ落つ沖縄   ほのか

蜂の巣駆除業者カーテン褒めて去る神奈川   岡一夏

春オフィスベイダー卿にも哀しみ熊本  貴田雄介

春愁を求肥に包んだのは誰八幡浜  福田春乃

朧たる我を洗濯機が囲む大阪   未来羽

「うすらい割るなよ」「目くじら立てるなよ」新潟  酒井春棋

手をつなぐみたいに開けて春にドア松山 板尾奈々美

帆のごとき耳に光よ彼岸潮長野  野村斉藤

「春の海。」好きなタイプを訊かれたら今治   京の彩

手になじむ小石を塗りて雛にせむ松山  小林浮草

 【嵐を呼ぶ一句】

戦争のニュース終わってコマーシャル熊本 夏風かをる

 現代諷刺の無季俳句。戦禍への関心が、人の欲望をかき立てるCMへと接続され、いつの間にか、経済交換の渦に引き込まれているという恐ろしさ。

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