公開日:2026.02.13
[青嵐俳談]森川大和選
棋王戦第一局の大盤解説会場に席を取る。場所は子規記念博物館4階講堂。藤井棋王と挑戦者の増田八段の対局場は緩坂を挟んだお隣の「ふなや」。立春の庭。冴え返る雪催。明治28年に漱石が泊まり、虚子とビフテキを食べたエピソードが残る。松山対局ではどんな熱戦が語り継がれるか。二人はお昼に何を食すか。
【天】
剥き出しの冬日、瀝青、韓国詩東温 堀雄貴
「瀝青」はアスファルトの素材。冬日も道も詩語も「剥き出し」で荒く、崖のようにざらつく。道が南北の国境を超えて、背骨のように繋がる。詩は愛を、血のルーツを、朝鮮半島の歴史や精神を、叫ぶものか。
【地】
節東風の頁読点ばかり攫ふ長野 野村斉藤
「節東風(せちごち)」は晩冬。春待つ東よりの風。湿度がある。その風が、紙面の読点「、」を攫い上げていく不思議。鳥獣虫魚の目覚め、草木花の萌芽に通じる余白の開き具合。同時作〈凍蝶を畳むや掌は詩碑〉は掌が碑ならば、凍蝶が詩。生死を糾(あざな)う。
【人】
かはらけにみづの匂へる寒さかな神奈川 ギル
「かはらけ」は近世まで使い捨てで利用された素焼きの盃。発掘現場か。冷気を吸い込んだ時に、遠くに「みづ」が匂う。宴の跡、何思う人々ぞ。「寒さ」が過去の人の心と作中主体の心の波を同調させる。
【入選】
雪原や一つの誤字のごとく我大阪 葉村直
牡蠣焼くる牡蠣の形に収まりて京都大院 武田歩
音域の狭き駄菓子や春浅し松山 川又夕
菓子ほどのたとへの雪や都市不能千葉 弥栄弐庫
冬すみれ打撲が海になる途中岡山 沼野大統領
鬱凪げば文字が魚になる待春大阪 未来羽
糸電話こちらも雪が降ってるよ大洲 坂本梨帆
髪に絡んでゐる旱星だつたきみ埼玉 互井宇宙論
浮寝鳥擬音の多きひとなりき東京 長田志貫
いかなごの釘煮離婚ののちの艶愛知 唐沢うに
未だ空爆のなき空寒に入る専修大 野村直輝
月下までガソリンを曳く公房忌和歌山 日塔朋記
啓蟄や書庫の全集引っ張り出し京都 ジン・ケンジ
ベビーフードおやきべとべと紅の花長野 沢胡桃
うずら無き八宝菜や寒の雨松山 一色大輔
風花や竹籠売の顰め面同 小林浮草
ほぐさねばならぬ口角おでんおでん愛媛大 野上翠葉
マフラーの残り香やあの地獄蒸し新居浜 翔龍
歯磨き粉嘔いて金原まさ子の忌名古屋高 冨田輝
黒白のマウス交はる海に雪米国 爪太郎
冬深む泥沼のやうな同情神奈川 河埜スミヰ
【嵐を呼ぶ一句】
一二三忌の歩に千敗といふ力松山 広瀬康
先月「ひふみん」こと加藤一二三九段が天に召された。通算対局数、敗数が歴代一位。勝数も四位の偉業。生涯に「歩」に何度触れ、何度突き出したか。成れば「金」。最弱の駒が盤面を決める日も。氏の謙虚な人柄と神武、キリストに守られた早指しの力が偲ばれる。




