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青嵐俳談

公開日:2026.01.23

[青嵐俳談]神野紗希選

 劣化する世界の底で、身ほとりの今を肯定することが単なるガス抜きにならぬよう、閉じこもらずに過去を見晴るかし、嘆かずに未来を見据えていたい。

 【天】

過去は雁は届いたらうかこの街へ愛媛大  野上翠葉

 雁のまとう郷愁が、か行の硬い響きとあいまって、忘れていた過去の質感を思い出させる。「届く」の語がやさしい。過去を、雁を、丁寧にこの街へ運んでくれる。同時作〈冬やそつと浜のほつれを縫ふ夜汽車〉も、は行の響きがほろほろと冬のかそけさを物語る。

 【地】

たゆたひて柚子相逢へる浮力かな静岡  酒井拓夢

埋め尽くすカメラロールに初御空今治   京の彩

 拓夢さん、柚子湯の柚子のぶつかり合うさまをゆったり描いた。「相逢へる」の擬人化が柚子湯の賑やかな嬉しさを引き出す。京の彩さん、元旦の空をスマホでたくさん撮った。埋め尽くす青がまぶしく嬉しい。

 【人】

荒星や牛脂に濁りゆくレモン愛知 四條たんし

本店のビビンバ食らう大晦日新居浜    翔龍

 たんしさん、焼肉のワンカットか。荒星の取り合わせも「濁りゆく」の動詞の選び方も、牛油やレモンの野生を呼び覚ます。翔龍さん、やはり本店のビビンバは違うのだろう。「そう、これこれ」と頷きながら年を越す、私ならではの大晦日が描けた。

 【入選】

淑気満つ赤子の拾う石清し長野   沢胡桃

読初やスワイプで繰る子規句集八幡浜  福田春乃

シャンメリー君の無口なとこがいい愛媛大  江村結子

喉奥に水母を鉤し初山河和歌山  日塔朋記

着ぶくれを脱ぎて人類史の起源東京  桜鯛みわ

蜂蜜を零すひかりや聖夜の灯東温   堀雄貴

黴餅に挟まれている餅白し秋田  吉行直人

元旦の防犯カメラへと会釈大阪   ゲンジ

密室のハウダニットの吹雪きけり松山   広瀬康

鼻歌はサビのメドレー若菜刻む同  一色大輔

凍解や化石となれる人わづか岡山 沼野大統領

棄てられて時雨の跳ぬるドラム缶高崎女子高  武藤理央

凍晴やバレッタ留めるバレリーナ酒田光陵高 伊藤ペンタ郎

脳幹を枕に沈め初夢を大洲  坂本梨帆

御慶とてサウナマットを立ちあがり千葉 平良嘉列乙

ぎやあぎやあと寒鴉渦なす夕間暮松山  小林浮草

煮凝を崩す六畳広すぎる長野  野村斉藤

パノプティコンの監視員めく寒鴉愛知  唐沢うに

冬銀河眼鏡を洗ふみづ震ふ神奈川    ギル

憂うつや絨毯撫でてうすくなる埼玉 互井宇宙論

 【嵐を呼ぶ一句】

ありよりのありマッコリとブロッコリ千葉  弥栄弐庫

 「ありよりのあり」とは今風の言葉で、「あり」の中でも「あり」に寄っている、つまり「めちゃくちゃあり」の意味。マッコリを飲みブロッコリーをつまみながら人物や出来事を評しているのだろう。「り」の脚韻を重ねたリズムに賑やかな明るさが弾けた。

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