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青嵐俳談

公開日:2026.01.30

[青嵐俳談]森川大和選

 小寒の風の日。日本将棋連盟今治中央支部を率いて半世紀余りの名物道場長と談議する。将棋界では、師は弟子に簡単に教えない。自ら究める。見て盗み、思索し、自らになる。年齢不問。厳然たる盤面。壁にかかる色紙は米長邦雄永世棋聖直筆の左馬。書にも芸。棋風の一つ泥沼流から、さわやか流へ身を翻す際の氏の息遣いが、前脚を上げた駿馬のごとき一字に宿る。

 【天】

賞状のような雪晴へと両手大阪   葉村直

 比喩が新しい。賞状受け取るときは、厳かでどこか身が引き締まる。晴れがましいが、紆余曲折を経て成し遂げた場合もある。前夜までの降雪を想起させる。両手の伸びやかさ、開放感がよい。同時作〈右向いて春待つヒエログリフかな〉は神々の無機質な表情を、待春の主観に断定した諧謔がよく効いている。

 【地】

咳くたびに海のひしめく花瓶かな和歌山  日塔朋記

 虚実皮膜の秀句。咳き込む身に沿って、花瓶の水が波打ち、揺れる。動かざる花瓶の妙。いや、花瓶も震え、いつの間にか痙攣し始める。肺めく花瓶。

 【人】

湯ざめしてやうやく実家てふ心地松山   広瀬康

 穏やかな発見。納得の一句。「湯ざめ」するほど話し込み、心身を弛緩させてこそ、実家の佳境。

 【入選】

蝌蚪の紐たぐればペンチの油臭愛知  唐沢うに

堀り炬燵すぐに謝るもの同士大阪   未来羽

タウンページ敷いて二日の腕相撲秋田  吉行直人

七種粥かたのちからをぬいてよめ大洲  坂本梨帆

つんのめりながら行こうよ霜の花八幡浜  福田春乃

ムスリムの炊出し冴ゆる夜を長蛇千葉 平良嘉列乙

霜柱踏みてからだに生るる芯松山  小林浮草

考えてゐるのだらうか裸木は京都大院   武田歩

冬ざれの人まで子音めいており愛媛大  野上翠葉

問一の問題眺め山眠る東雲女子大  田頭京花

少年の指笛狼の遠吠え大阪   柊木柩

初比叡対岸にある我が家なり立命館大   乾岳人

春を待つ厚切りの肉山盛りに松山   川又夕

拡大鏡に部品星めくうららかな三重 多々良海月

ブルゾンに手の映えてゐる寒鯉釣愛媛大  飯本真矢

笑うならセーター編んでやらないから東温   堀雄貴

雪催猫抱き上げる煤の指埼玉  東沖和季

触れられるという触れ方花八手専修大  野村直輝

風花を幽かに記述する大気大阪 高遠みかみ

羽音もしくは殿眠る堀へ消える雪長野 DAZZA

口笛は掠れて捕えたきオリオン高崎女子高  武藤理央

アボカドの皮を剥く爪暮早し兵庫  西村柚紀

 【嵐を呼ぶ一句】

賀状出す〆はゆるキャラ宛と決め新潟  酒井春棋

 時事の一句。日本郵便の「推し活年賀」という新キャンペーンが盛り上がりを見せた。クリスマスまでに投函する人、年賀状終いしない人の「〆」の一枚。

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