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青嵐俳談

公開日:2026.02.06

[青嵐俳談]神野紗希選

 人の句を見ると、自分にない美点が目につき焦ることも。でも無理に真似る必要はない。自らの特性を愛し、伸ばすことが肝要だ。繊細、端正、鋭さ、逞しさ、親しさ、軽やかさ…。あなたらしさを俳句は喜ぶ。

 【天】

まぶたほどひかりの透けて凧は空愛媛大  七瀬悠火

 閉じたまぶたを透ける光のように、空の凧もやわらかな日差しを透かす。冬の微光が繊細にあふれる。同時作〈無地されど心つぎはぎパセリちらす〉の行きつ戻りつする叙述も細やか。シンプルなはずなのにばらばらで縫い合わせた心。パセリの軽やかさが救いだ。

 【地】

寒紅や不敬だろうが舌をだす済美平成   れくす

いつか滅ぶ言葉を塔に冬の羽化静岡  東田早宵

 れくすさん、アナーキーでありたい、鬱屈の打破。同調せず屈服せず我を貫く強さを「寒紅」に託した。早宵さん、言葉と塔といえば、バベルの神話。塔は崩れても、羽があれば空を目指せる。冬の夢の深さ。

 【人】

母国てふ深爪のあり雪の声兵庫  石村まい

冬薔薇を束ねる手つきで髪を結う愛媛大  江村結子

 まいさん、深爪は自ら切り過ぎるもの。自傷にも似た母国の痛々しさとはいかに。雪の声がしんしんと指先の熱に沁み入る。結子さん、髪を束ねた私のうちにも、冬薔薇に潜む棘の鋭さ、命の執念さが輝く。

 【入選】

しやらしやらとアルミハンガー淑気満つ北海道  柏木七歩

火に歌ふ貧しくていいなんて嘘神奈川   岡一夏

早咲きの梅群青の青を欲る同  高田祥聖

白鳥やシニヨンヘアに渦幾重東温   堀雄貴

冬晴がパキリと割れて総選挙千葉 平良嘉列乙

ちりめんに蟹この街に着ぶくれて大阪   未来羽

白鳥は眩し保険は審査待ち長野   沢胡桃

東西南北に神ゐる炬燵かな愛媛大  野上翠葉

ポタージュと言ひゆつくりと榾を継ぐ京都   宇鷹田

寄宿舎に手袋の列干されある愛媛大  飯本真矢

垂直二等分線冬の雷東雲女子大  田頭京花

日脚伸ぶ紙飛行機のつくちから大洲  坂本梨帆

アヒージョへもちを入れたる寒波かな大阪   ゲンジ

君に語る私がわたし初日記八幡浜  福田春乃

ボルシチを煮て何度目の春を待つ酒田光陵高 伊藤ペンタ郎

寂しくてイヤホン外す初電車松山  一色大輔

接続詞ばかりの遺書よ冬ざれし愛知  唐沢うに

銃撃の血痕の位置木瓜の花ドイツ  山崎秀貴

エディプスコンプレックス東京に稀の雪埼玉  伊藤映雪

天目の青き斑紋初茜兵庫  山城道霞

竹馬や雲に重なる櫓門済美平成  川口心実

 【嵐を呼ぶ一句】

四次元を海鼠のぐにゃりつつぴかる松山   広瀬康

 空間を超えた四次元の不思議に、海鼠の得体の知れなさが蠢く。「ぐにゃり」「ぴかり」というオノマトペを動詞化して使った描写が新しい。伝わるぎりぎりを攻める冒険が、言葉の可能性を拡張する。

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