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青嵐俳談

公開日:2026.01.09

[青嵐俳談]神野紗希選

 アメリカによるベネズエラへの攻撃。人類の変わらぬ愚行に御慶も憚られる新年だが、俳句の言葉のうちに息する人間性に耳を澄ませ、社会と対峙したい。

 【天】

幼年期終る人類鯨鳴く京都 ジン・ケンジ

 人類のここまでの歩みは幼年期だったのだと定義づけた視点に、批評性と希望が宿る。争いばかりの幼年期を終え、少年へ、青年へと成熟できるか。人類より少し先輩の鯨は、我々のありようを海から見つめる。

 【地】

隼が分割統治する私大阪 高遠みかみ

クリスマス果ててあくびをうつしあふ兵庫  石村まい

 みかみさん、寺山修司は〈目つむりてゐても吾を統ぶ五月の鷹〉と詠んだが、現代の私はばらばらに分割され、隼に統べられる。自我のままならなさを象徴的に記した。まいさん、クリスマスのあとの退屈に焦点をあてた。あくびをうつし合う相手のいる温もり。

 【人】

ザクザクと崩す枯葉やパイシチュー今治   京の彩

寒晴やあばらの骨のごとく雲高崎女子高  武藤理央

 京の彩さん、踏みゆく枯葉の音に、パイシチューのパイを崩す音を重ねた。寒風の中、シチューの温かさが恋しい。理央さん、凍てつく空の筋雲が、野ざらしのあばら骨のよう。きっぱりと厳しい寒晴の澄みぶりに、命に触る簡潔な比喩が、鋭く重く輝く。

 【入選】

熊穴に入る爪楊枝ぶちまける秋田  吉行直人

天使より悪魔の息の白からむ大阪   ゲンジ

寝かし終え皸痛み出す夜半長野   沢胡桃

祈れども手と手に隙間葱の花愛媛大  七瀬悠火

時刻表空欄ふえてみぞれ雪松山   川又夕

ビルとビル結ぶ地下茎年暮るる東京  長田志貫

腸より興りしこの世冬襖和歌山  日塔朋記

飾らない生き方冬の木のような大阪 宇都宮駿介

初電話エヴァンゲリオン色の機種松山   広瀬康

筆ペンは玄き瀧なり賀状書く専修大  野村直輝

老犬の白む右目や冬の月松山  小林浮草

マカロニのロの字を抜けて去年今年新潟  酒井春棋

モデル都市この冬空も固定する愛媛大  田外美緒

冬晴や君を消しゴムで消したい八幡浜  福田春乃

冱つ朝よぜったい生きるまず起きる大洲  坂本梨帆

そのへんの余白に冬と書いておく京都   宇鷹田

かつて火のただよふ沖を冬鴎名古屋高   冨田輝

プランB実行します冬北斗松山東雲女子大  田頭京花

原付で追いつけさうな冬落暉東温   堀雄貴

暗く澄む回送列車梅の頃茨城   眩む凡

各停の行き違い待ち冬ぬくし伊予  新岡明浩

 【嵐を呼ぶ一句】

洗っても落ちないクリスマスソング神奈川  高田祥聖

 一般的には明るい印象のクリスマスソングを「洗っても落ちない」汚れのように言いなした。家族や恋人や友人とにぎやかに過ごすことを前提とするような昨今の聖夜の賑わいを、疎ましく苦しく思う人もいる。耳にこびりつく旋律から逃れて眠る夜だってある。

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