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青嵐俳談

公開日:2025.12.19

[青嵐俳談]神野紗希選

 夢の中では、川の水が冷たくなかったり、鉄が簡単に折れたり、血が出ても痛くなかったりする。現の世からすれば非リアルだが、夢のリアルというものもまた存在するのなら、言葉はそれを書きうるか。

 【天】

悴めばデスクトップに白夜の木茨城   眩む凡

 ソフトウェアがデスクトップにランダムに映し出す写真を見るたび、この世界のどこの風景なんだろう、と思う。夜が来ない白夜は、どこか永遠に手をかけているよう。清らかな幻を一瞥し、悴む濁世に戻る。白夜の木は今も、どこでもない場所に立ち続けるか。

 【地】

せせらぎが微かに硝子質で冬三重 多々良海月

同棲やホットミルクにうすく膜愛媛大  飯本真矢

 海月さん、せせらぎの水の質感に、繊細なきらめきや硬さを見出し、そこに冬を感じ取った。「カスカナガラスシツ」、擦過音多めの調べも繊細だ。真矢さん、ホットミルクが同棲の温もりをささやかに伝えつつ、薄く張る膜の皺に繊細な心の震えも見てとれる。出来事の多面性をよく表し得ている具象例だった。

 【人】

川凍りゆくはんざきと眠りたい愛知  山本真幸

さつきああ言へばよかつた鴨鴨鴨東京 阿部八富利

 真幸さん、凍りゆく川で山椒魚と眠りたいとは。透徹した風狂。八富利さん、怒濤の「鴨鴨鴨」には驚いた。水辺でぼんやり悔やむ内省の意識を、ひしめく鴨の存在感が、あっけらかんと外へ引き出す。

 【入選】

ラガーらの組むとは骨を掴みあふ大阪   ゲンジ

石鹸のネットに絵の具実南天京都大   武田歩

アルビノのワニの赤き目冬あたたか京都 ジン・ケンジ

冬休ラップに残るご飯粒大阪  辰巳電柱

着膨れてをり契約の甲も乙も大阪公立大 宇都宮駿介

つめたしよ自立していて滑り台京都   宇鷹田

千鳥燃ゆ無声を真球と知れば和歌山    朋記

裸木の蒼を率ゐるバレリーノ兵庫  石村まい

犬笛や鶏頭枯れてばっくれて八幡浜  福田春乃

虹いつも絡まつてゐるしやぼん玉愛媛大  七瀬悠火

聞き返すとき近づいて金木犀京都大  水野不葎

園児らの抱く白菜の密度かな東京    菖蒲

おはようは明るき粒子冬晴るる同  桜鯛みわ

夜の冷えを踏みて炬燵へ足痒し同  蒼井憧憬

無意識を得る網膜や冬日向大洲  坂本梨帆

くもりのちあめのいちにち寒雀高崎女子高  武藤理央

生活史厚し霜焼気持ち良し松山  石川穴空

凍星のこぼるる指輪ひとつ買う同  森美菜子

バーナーに翳す手紙や憂国忌愛知県立大   柊琴乃

少年と鯨は夜をこめて歌う一ツ葉高    とき

 【嵐を呼ぶ一句】

肉まんの包みで食べづらい「あーん」東温   堀雄貴

 コンビニで買った肉まんを食べさせてくれようとするのだが、包みも一緒に齧ってしまいそう。もう少し包みをめくってくれたらいいのに、いや、でも有難いことは有難く…。十七音に言葉を整理し、的確に状況を伝えた。肉まんも、もう冬の季語でよいだろう。

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