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青嵐俳談

公開日:2025.12.12

[青嵐俳談]森川大和選

 愛媛県内のボーイスカウトのカブ隊(小2~小5)が紅葉の石鎚山麓に集合した。カブ隊の制服は青。指導者はカーキと薄茶。集まった約300人は、所属団毎にネッカチーフの色合いが異なる。ロープワークに、簡易救助用具の作成、ボルダリングに樹上アスレチック。訓練半分、遊び半分。一泊二日汗を流した。

 【天】

浄月庵出て仄赤き返り花京都 ジン・ケンジ

 「浄月庵」は作家の有島武郎が最期を遂げた軽井沢の別荘。愛人との心中であった。現在は記念館となっている。優秀だが、どこか受身で、どこまでも純粋だった一本気な武郎の人生が、儚げに狂い咲く花に、そこはかとなく、しかしひしひしと感ぜられる。

 【地】

弓なりに燃ゆる手紙よ冬木立茨城   眩む凡

 手紙を燃やすには、過去と決別する強い意志が必要だ。浄化したい怨恨や悲哀もあろう。だが、燃え盛る最中、手紙の文字に封じられた相手の思いが、断末魔の叫びとなって抗い、不吉に身を反らす。穏やかな冬木立までもが、その一瞬、不穏な陰影を帯びる。

 【人】

転車台回して冬銀河の向こう松山  若狭昭宏

 蒸気機関車等の運転席が片方にしかない列車の向きを変える「転車台」。夜空の「向こう」へ滑り出る発想は、銀河鉄道999。童心の浪漫を思い出す。

 【入選】

箸遣いやがて夜明けの鯨の目静岡  東田早宵

オルゴールの裡のくらやみ霜の花兵庫  石村まい

焚火へ箸ルバイヤートに愛と酒和歌山    朋記

溜息は文鎮冬晴を留めて神奈川    ギル

納得はしてないけれどコキアの朱八幡浜  福田春乃

フリスビー追ひゆけど追ひゆけど雪東京  長田志貫

退職の同期と鯛焼を齧る同  加藤右馬

雲梯にひと日をぶら下がる小春兵庫  杉浦萌芽

パイプ椅子ゆらす黄落のリズムで愛媛大  飯本真矢

富士山が見えたから今日布団干す長野   里山子

雪迎まばたきが空青くする神奈川   岡一夏

回廊に水のにおいが満ちる過去大阪 高遠みかみ

オペ前夜白米の艶冬浅し愛知  高橋亜実

身の内の兎の声を聞いてやる兵庫  西村柚紀

毛糸編む置き去りにしてきたものへ埼玉  東沖和季

再稼働容認熊の穴に入る新潟  酒井春棋

洗濯ばさみ離さない子と日向ぼこ長野   沢胡桃

錆び猫のすりりすりりと榠の実松山  小林浮草

山眠るキリンの首の太く硬く東京農大  コンフィ

走馬灯に出さうな酸つぱさの蜜柑大阪   ゲンジ

 【嵐を呼ぶ一句】

無差別に落葉踏みゆく我もまた松山   広瀬康

 落葉踏みの音が恐ろしくなってくる。地球上に絶えることのない戦地の無差別攻撃のごとく。誰かに、直接的な攻撃をせずとも、何気ない選択が巡り巡って、間接的な加害になっているかもしれない。

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