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青嵐俳談

公開日:2025.10.31

[青嵐俳談]森川大和選

 西条市丹原町の西山興隆寺に上る。御守の授与所も開かぬほどのあいにくの雨。紅葉もまだまだだが、仁王門のライトアップに迫力あり。石段には、横切る沢蟹、掌より大きな山赤蛙。真言の刻まれた墓は古く、風雨に丸みを帯びる。その彫りに苔が生え、雨粒を抱く。

 【天】

晩秋の象のうちがは真つ黄色兵庫  石村まい

とつぷんと鹿のまばたきする時間大阪   葉村直

 「象」には好奇心がある。内側が「真っ黄色」であるのは、晩秋のイチョウを見たからか。まるで黄色い象を見た気分になる。「とつぷん」と溜めのある「鹿」の時間感覚の面白さ。あの円らな瞳には、世界がスローモーションで映っているのだ。葉村さんの同時作〈虫売の不在の石に坐してみむ〉の視点も独自。「虫売」を体験してみたい作者の興味に俳味がある。

 【地】

新米と口遊むほど瑞々し新潟  酒井春棋

 句につられて何度も「新米」と呟くと、S音の存在感が強くなり、確かにそんな気がしてくる。そして、香り、つや、粘り、甘みの瑞々しい新米を、もう一段際立たせる土鍋を使って炊きたくなる。

 【人】

うちももを月へ曝してゐる不貞寝大阪   ゲンジ

 叱られた後か。何とも大胆な姿勢。心情を全身で表現する子どもの特徴が出ている。微笑ましい。泣き跡が月に照らされ、浄化され、明日の力を蓄えている。

 【入選】

胸鰭の生えはじめたる踊かな茨城   眩む凡

鼻歌の仄かな木霊天の川大阪    とき

瞳てふ鏡面磨くべく紅葉松山   広瀬康

天の川連続体のぼくたちは静岡 海沢ひかり

吾に君に違う正しさ栗ごはん八幡浜  福田春乃

鰯雲退職届備考欄京都 ジン・ケンジ

火恋しミルクパズルを外周のみ神奈川   岡一夏

刑法やひねもす蛇の交みおり和歌山    朋記

猫じゃらしの群れだったから助かった長野   里山子

鳥は枝を絞めて止りぬ秋の風神奈川    ギル

名月や棲む場所訊かぬ恋をして岡山 沼野大統領

おとなりは遺言セミナー秋の空兵庫 冬木ささめ

とろろ汁ごと流し込む世間とか同  西村柚紀

矯正の金具冷たし夜学校新居浜    翔龍

遺伝子を浸すシャーレや春の雷京都 大衆文学宣言

一枚の湖裏返す星月夜専修大  野村直輝

紙袋にコーラと林檎摩天楼米国   爪太郎

蓑虫や月より堕ちたものとして千葉  弥栄弐庫

路地裏の鉢よりしゃんと曼珠沙華松山   福良雀

引網の鰯は空の青を知る三重 多々良海月

 【嵐を呼ぶ一句】

値を上げる牛乳白く夜長かな神奈川   一人男

 搾乳は朝夕二回が多いが、「夜長」の感覚が強いのは早朝か。経費がかさみ、生きるために、また牛を生かすために、仕方なく値上げに踏み切る。しかし、どこか申し訳なさそう。今から出荷する牛乳の「白さ」から、酪農家の複雑な心境が静かに迫ってくる。

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