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青嵐俳談

公開日:2025.02.07

[青嵐俳談]森川大和選

 浪高し。しなる路面電車。ヒロシマの旅。日本被団協のノーベル平和賞受賞を記念したシンポジウム。その現場に会いに行く。登壇者は語る。オスロ滞在中の御縁と晩餐会の裏話を。そして、原爆症の診療と研究の40年、被爆体験証言の通訳の40年を。あの地獄を。世界の核使用の危機を。会冒頭の祝意の拍手は、意味を深め、内から蹴破られた胸の痛みとともに、張り付いた真顔を結ぶ。自らの心の声を、果たしてゆく。

 【天】

水仙の塊胸郭を満たすほど茨城   眩む凡

恋猫の旁若無人さにならへ松山   川又夕

 胸郭と恋猫のグロテスクさ。胸郭の鳥籠に水仙幾束かの塊を満たす耽美。満ち破り、溢れ香る蠱惑。水仙の隠喩とは。後者は巻き舌で言いっ放しの「ならへ」に魅力。傍若無人も言い得て妙。落語に咲く滑稽さ。

 【地】

三郎の屋根に雪鳥集まれり千葉 平良嘉列乙

 達治へのオマージュ。太郎、次郎は静かに眠り、三郎は南極の夢を見る。真っ白な雪積む屋根に、真っ白な雪鳥が寄り、末広がりに子を殖やす。四郎も花子もすくすく尊く、寝顔寝返り、寝言に願う。この子の笑顔、子の未来。子どもに自由、平和こそ子に。

 【人】

資本主義にすまふ枯野に寝転んで埼玉  伊藤映雪

 社会生活は経済構造から離れられないが、心は一歩引き、枯野に青空を見て、寂しくもなく、悠々自適。

 【入選】

自画像の鼻を探している一月大阪大  野村隆志

行きしぶるユークレースの子よ霜夜長野   沢胡桃

ヒヤシンス句点の呼吸まで聴いて兵庫  西村柚紀

失恋のアポストロフィー雪となる西予    えな

冬の石砕きケツァール描かんとす東温  高尾里甫

雪に骨あなたの耳にいま燃える静岡  東田早宵

自然発火の夜は枯園に埋めてある和歌山  よしぴこ

月朧壺に肺腑を護る神東京科学大  長田志貫

書初の課題の全て破れけり東京農大  コンフィ

まづ喜寿の二人より豆撒き始む東京  加藤右馬

風花の疎に砲の遠響松山  若狭昭宏

冬林檎がりり贋作師のまがほ東京  桜鯛みわ

雪しまくうちは家守は診れません大阪 家守らびすけ

凧つひに地球のうらに張り付きぬ福岡 一ノ瀬なつめ

〆切に追はれ蜜柑を喰ふ妖怪大阪   未来羽

冬の船で食べるパイナップルが好き大分大院  鶴田侑己

はじめての海鼠にゃめにゃめポン酢きゅん大洲  坂本梨帆

 【嵐を呼ぶ一句】

一陽の嘉節絶滅危惧種ヒト埼玉  東沖和季

 陰に満ちた冬至の日に、延びゆく日中の長さを祝う「一陽の嘉節」。これには停戦や和平の喜びも重ねてあるか。しかし、それらが一度破られ、泥沼に陥ると、行きつく先は…。白泉の廊下の奥をもっと見よ。

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