公開日:2025.01.24
[青嵐俳談]森川大和選
内子町新春俳句大会に楽しむ。当日投句の作品を来場者も互選する。披講係は声が通る。元気。選者八人皆選評を述べる。まるで大きな句会。居心地が良い。受賞句に〈凧揚げや宇宙の声聞く糸電話〉、〈自らの卒業証書の紙を漉く〉等。いやさか凧の町、和紙の町。
【天】
ベツレヘムの星を仰ぐや塹壕よりドイツ 山崎秀貴
ベツレヘムはパレスチナのヨルダン川西岸の街。新約聖書に記されたこの星は、イエス・キリストの降誕を告げた福音である。ガザやウクライナの最前線を想う。それぞれの塹壕に身を隠す敵味方双方の兵士を想う。本当は殆どが平和を冀(こいねが)う。祈り、見上げる星。無季だが現代の真実を記した叫びの詩。
【地】
形なきものにも影や初日の出松山 若狭昭宏
被災後の能登を取材した報道の中で「自分たちにとって、元旦はずっと命日だから」という言葉が胸に刺さっている。初日が映すのは今だけか。いや、記憶の中の人も街も。田畑も山河も。此岸だけか。いや。
【人】
冬銀河人間の額縁は何松山 近藤幽慶
迫りくる冬の天の川の壮麗さに心洗われるとき、人為の糸を縦横に編み上げた社会構造の「額縁」に懐疑する。過度に誇ることなかれ。己の小ささを顧み、その小さな命の尊さを正しく見、澄んでいたい。
【入選】
抗えば聖なる尾びれ春嵐静岡 四條たんし
鯊皮下にいる胎動や冬日和長野 沢胡桃
ぬる燗や話の端に外来種松山 川又夕
上様を騙る不届者の鶴慶応大 ぞんぬ
賀状出す仮設住宅団地行き新潟 酒井春棋
風見鶏南を向いたまま凍る京都大 武田歩
左義長やまず眼より熱くなり和歌山 よしぴこ
みな雪を仰ぎ見るなり棒の如く茨城 眩む凡
胚移植首都の雪降る可能性千葉 弥栄弐庫
充電器差し込まれたる去年今年同 平良嘉列乙
AIの誤答を嗤ふとき寒し大阪 未来羽
これが鵜の鵜呑みかと着膨れの衆神奈川 岡一夏
後頭部に白髪一本大試験専修大 野村直輝
人形の臓器の全て冷たくて東京農大 コンフィ
春永や鏡文字なる宇宙服神奈川 ギル
初明り未来のやうな遠さから京都大 水野不葎
残留の寮生二日のカレーうどん大阪 電柱
紙製の橙を貼る鏡餅岡山 杉沢藍
初電話凶の御籤の余白にて東京女子大 光峯霏々
【嵐を呼ぶ一句】
推し麗しくタイムラインを下る鮫静岡 東田早宵
おしてくださいおまちください初詣八幡浜 福田春乃
推しの二句。タイムラインに現れた「推し」の画面が下方へ隠れたのを、速やかに追う必死さ。「鮫」が可笑しい。自分のことか。後者はSNSに投稿したコメントと、初詣の臨場感が並記されている軽妙さ。