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青嵐俳談

公開日:2025.06.20

[青嵐俳談]神野紗希選

 数年前からとみに日差しに弱くなり、サングラスなしで外出すると頭痛が出るようになった。地球からは約一億五千万キロも離れているのに、太陽エネルギーは熱く重たく体にのしかかる。〈太陽は轟音に燃ゆ滑莧 小川軽舟〉、聞けるはずのない音を聞きとるのも想像の力だ。スベリヒユに降り注ぐ日差しの強さが、彼方の太陽の轟音にリアリティを与える。

 【天】

向日葵はポリアモリーだ雲が黒愛南  雨宮鹿男

 ポリアモリーとは、互いに合意の上で複数の人と関係をもつ恋愛のスタイルを指す。向日葵の群れの生命力に、あふれる愛を見た。さらに下五の展開が真夏の圧を感覚的に再現する。是も非も押し流す雨の気配。

 【地】

ギタボはロン毛でサックスは裸千葉 平良嘉列乙

おほきくてふるい蜻蛉を川と云ふ京都   宇鷹田

 嘉列乙さん、ギターボーカルがロン毛で、サックスは裸…。尖った編成、ライブの混沌が十七音に投げ込まれた。宇鷹田さん、表現は特異だが、思い浮かべるのは、大きくて古い川を蜻蛉が飛ぶ、郷愁の風景。蜻蛉の翅と川の水面が光り合い、同質化してゆく。

 【人】

しろくまや檻のむかうに夏の星京都大     弓

フルーツコウモリ銀河の硝子戸新居浜 羽藤れいな

 弓さん、白熊にとっては暑い暑い夏、檻の向こうに光る星の涼しさをどんな気持ちで見つめているか。れいなさん、果物を食べるコウモリの甘い清らかさが、銀河の星の輝き、硝子戸の光とイメージを通わせる。

 【入選】

初夏や機銃のやうに傘を抱き神奈川  高田祥聖

青芝に玉音が白濁している和歌山    朋記

聖五月卵にぼんやりと重心茨城   眩む凡

青林檎ずつと並べていつかは橋京都大  水野不葎

くらげくらげピクトグラムにまで性差大阪   ゲンジ

ふる。ふるえる。すべてあじさいになる。よる。東京  池田宏陸

どくだみが人なら夜行性だろう専修大  野村直輝

灼け砂や吾の足跡は吾に向かひ愛媛大    悠生

昼寝覚津島修治といふ男松山  近藤幽慶

梅雨に入つたか備蓄米食つてるか新潟  酒井春棋

思想より倫理が大事春の雲名古屋高   冨田輝

明易のブーケガルニを束ねたる東京農大  コンフィ

身を粉に詩は清貧に雲の峰東京  長田志貫

milk飲むように薫風飲む嬰児長野   沢胡桃

喋らないできみはゼリーになる運勢静岡  東田早宵

キャラメルを噛んで草刈機のひびく大阪 土井あつあげ

墨象のやうに虎魚を拭き払へ洛南高    真枝

母へ桃ゼリー食ふだらう食へるだらう東温  高尾里甫

こんなにも重き眼球青葉冷八幡浜  福田春乃

灰燼の重みに屈す御辞儀草弘前大  板倉省吾

 【嵐を呼ぶ一句】

母の日にケーキなんて買わなきゃよかった弘前大 きょうぱち

 愛を素直に交わせる親子関係ばかりではない。喜んでもらえなかった悲しみが、口語に率直にこもる。

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