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青嵐俳談

公開日:2024.12.06

[青嵐俳談]神野紗希選

 言葉がひらく扉のあちらに、どんな水面が広がりどんな火が揺らいでいるか。その光を(あるいは影を)見たくて、句を読み、詠む。私の水、私の火とは。

 【天】

桟橋が欲しい十一月の鬱大阪   未来羽

人類は皆夭折や冬銀河松山  近藤幽慶

 未来羽さん、ただでさえ苦しい鬱、陰影深き十一月ならなおのこと暗く深かろう。水に伸びる桟橋はここではないどこかへの出口。舟に乗れずともまずは桟橋があらば。可能性を握り締め深呼吸することすら、遠い。幽慶さん、人間の寿命は百年ほど。銀河の時間からすれば「皆夭折」も納得だが、あらためて言語化した鮮やかさに脱帽。夭折まで、今を駆け抜け生きよ。

 【地】

冬月にふれたくて積む角砂糖東京  桜鯛みわ

狐火をほのほの舟と思ふべし同  池田宏陸

 みわさん、ぐらぐら積んだ角砂糖の上で背伸びするみたいに、月光の冴えを恋う。月と角砂糖、美と俗の配合のキッチュな魅力が。宏陸さん、「AをBと思うべし」、直喩の構文の変奏も、想像力を駆使し使いこなしたい。炎の舟は何を運ぶか。美しい言葉の幻想。

 【人】

Choose your weapon 悴むその指で愛媛大  岡田快維

こんな恋したっけ秋のミルクセーキ大分大院  鶴田侑己

 快維さん、武器を選べと迫る英語の異物感が、状況の切迫の緊張感を駆り立てる。季語「悴む」のこわばりも主題を押し出す推進力に。侑己さん、「秋のミルクセーキ」の発見。言葉をアレンジして私だけの季節を見出せば、宿る感情もまた一度きりの光を放つ。

 【入選】

弾圧や林檎の真中なるナイフ秋田  吉行直人

ままならぬことあり蕪を茎と煮る兵庫  西村柚紀

波の花ふるへて鮫の涙腺は茨城   眩む凡

返り花冷めたポテトをつまみ合う東京農大  コンフィ

廊下の奥の小さな花瓶冬隣京都大  水野不葎

凍蝶のビジュが爆発してをりぬ松山   広瀬康

保健室登校葛湯の底に希死念慮京都  佐野瑞季

あえかなる花とす冬の木漏れ日を三重 多々良海月

ラストイヤー敗退オリオンは光る関学大   ユキト

品出しの膝つく床や冬に入る千葉 平良嘉列乙

階段をくる狼の眼のきれい兵庫 大山田いぬふぐり

笑い声文字起こしして星月夜松山    舞句

膝掛の星零れさう零れさう新潟  酒井春棋

櫛に目をつむる退屈七五三大阪   葉村直

冬ざれのガザや瓦礫は墓として愛光高  飯本真矢

わたしのでよかったら膝掛どうぞ四国中央医療福祉総合学院  坂本梨帆

コンビニで買う靴下よ小春風長野   里山子

手のひらの鳩を渡されクリスマス愛知 紅紫あやめ

屋外でひらく歌集や冬に入る八幡浜    春乃

未来変えたしみんなに渡す櫟の実埼玉  伊藤映雪

 【嵐を呼ぶ一句】

また加工している自撮り蜜柑剥く東温  高尾里甫

 現代的な素材にどんな季語を取り合わせるか。素朴な蜜柑が絶妙。現代を俯瞰しつつ肯定するぬくもり。

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