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青嵐俳談

公開日:2024.07.26

[青嵐俳談]森川大和選

 今治教会で執り行われた堅信式の後、俳人でもある前田万葉枢機卿とお話しする機会があった。氏の〈烏賊墨の一筋垂れて冬の弥撒(ミサ)〉には、ミサの痺れる寒さとたぎる信仰の対比、烏賊墨の濃さとキリストの血の重なりが見事に詠まれている。その日のお説教の中でも三句お詠みになった。季語に「鰹」を用いた句では、字に堅信の「堅」が含まれているからよいと仰った。朗らかな言葉遣いにお人柄が伝わってくる。

 【天】

ドードーの國に往き着くハンモック北海道 北野きのこ

 17世紀に絶滅したドードーは、ずんぐりとした体形で飛べず、人間を警戒しなかったらしい。捕食せず共存すれば、この鳥とどんな楽園を築き得たか。その楽園へ誘うハンモックの眠りにロマンがある。一方で、大航海時代の艦隊に張られたハンモックと読めば、後の悲劇を予見させ、この星と生きる戒めを含蓄する。

 【地】

蜜豆を囲む法律談義かな青森 夏野あゆね

 純喫茶を思う。談ずるのは専攻の学生か。お堅い一面を持つ一行が、揃って蜜豆を注文し、喜び食む無邪気さ。フルーツも赤えんどう豆もたっぷりの一杯。

 【人】

浮人形ハシビロコウの仁王立ち西予    えな

 浮いてきたハシビロコウの意外性。満身の濃灰に嘴の黄の対比。玩具らしからぬ目の鋭さもたまらない。浮けば再び沈めるまで、直立不動のままでおかしい。

 【入選】

ぐんと下がるリンボーダンス雲の峰三重 多々良海月

釣堀へ七夕竹の触れさうに東京  加藤右馬

ひなたみづひとときひたむきにひかる松山   広瀬康

カヌー漕ぐ知らないことを広げゆく愛知 四條たんし

鉛筆で蟻と戯れつつ画題熊本 夏風かをる

向日葵の幸せそうに種の密松山  近藤幽慶

向日葵の色しまひこむごとく枯る甲府南高  斉藤巻繊

夏雲も死も跫をもたずして愛媛大  岡田快維

サイダーはもつとうるさいはずだつた神奈川   岡一夏

六月の柱状節理めく不安千葉 平良嘉列乙

保健室登校白靴は無傷京都  佐野瑞季

アルパカの毛並みへ作り雨の紋愛知 紅紫あやめ

すっぽかす二度寝の夢の蜚慶応大   ぞんぬ

夏休みまず電柱へラリアット秋田  吉行直人

イキイキと紫陽花チャパチャパと出社神奈川 にゃじろう

胎動は最初の力合歓の花東京    麻礼

梅雨闇をしずかに安打製造機東工大  長田志貫

 【嵐を呼ぶ一句】

スタメン外れセミがどこにいるかわかる大分大院  鶴田侑己

 高校球児を思う。「外れた」落胆。だが、ドリンクや氷嚢を渡し、出場選手に尽くすうちに、だんだんと冴えてくる。これが代走、代打の集中。次戦の準備。

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