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青嵐俳談

公開日:2024.03.29

[青嵐俳談]神野紗希選

 小2の息子ともども、花粉症でぐずぐずの日々。くしゃみ、目薬、鼻うがい…詩は無くとも俳はある。

 【天】

みづのえをあをきさくらのごとくみる東京  池田宏陸

 漢字に変換すると「水の絵を蒼き桜のごとく見る」だろうか、平仮名にひらくことで意味が剥がれ落ち、絵に没我する無意識の感覚が宿った。絵も、水とも桜とも分からぬ色彩に還元されるよう。〈さきみちてさくらあをざめゐたるかな 野沢節子〉への呼応とも。

 【地】

AIはヒトを恐れず涅槃雪神奈川  高田祥聖

春キャベツこれから読める本たくさん長野   里山子

 祥聖さん、「ヒトはAIを恐れる」という現代の感覚の上に発想の枝葉を拡げた。AIの端然とした在りように「涅槃」の悟りが重なる。里山子さん、やわらかく葉を巻く春キャベツは、めくられるべき本のページのよう。「春」の明るさ、「これから」の未来、「読める」の可能性に、やさしく光が集う。

 【人】

寂しいと思うよパキラ春の夕東雲女子大  田頭京花

落第やどのたんぽぽも傾ぎゐる洛南高  河本高秀

 京花さん、「寂しいと思うよ」と告げる寂しさの確認が切ない。鉢植えのパキラの葉に淡い夕日がさすさまも、満ち足りずどこか寂しい。高秀さん、落第の気分で見つめるとたんぽぽも傾きが気になった。社会からこぼれ落ちた私の、たんぽぽとのほのかな連帯。

 【入選】

そらいろに咲く渦潮のほどけぎは神奈川   岡一夏

朧月ストローでのむ缶チューハイ栃木     凪

気を抜けば取引に堕す育児春熊本  貴田雄介

ふらここや記憶はいつも濡れてゐる茨城   眩む凡

人生はとうに鈍行花筏大阪   未来羽

魂蔵にあづけし髄とほく野火甲府南高  斉藤巻繊

海賊の花押は長し春北斗今治西高    颯萬

あをぞらへてふは点滅するやうに学習院大 はんばぁぐ

春の暮祖父のテレビの匂ひかな大分大院  鶴田侑己

しやぼんだま吹くだけの日もあつていい東京    渡心

心から祈れば風は光ります専修大  野村直輝

フォーク押し当ててニョッキや山笑ふ神奈川 沼野大統領

具のぜんぶあふるる啓蟄のバーガー東温  高尾里甫

障子戸をAdoのステージめく花影長野   藤雪陽

遠慮なく集へよふきのたう探さう新潟  酒井春棋

ほんたうのききてはひだりはるのほし大阪   ゲンジ

心理的安全性や蜜柑揉む秋田  吉行直人

ミネルバと名付けしオウム万愚節三重 多々良海月

指編みのシュシュは青色卒園す松山  若狭昭宏

春霞東口より発ちにけり今治西高 山田章太朗

 【嵐を呼ぶ一句】

春光を集めて放つかめはめ波西条   広瀬康

鳥山忌宇宙てふ海に波一つ東京  江口足人

 漫画家・鳥山明の訃報を受けて。康さん、「ドラゴンボール」の必殺技「かめはめ波」を、季語「春光」のまぶしさで引き寄せた。足人さんの「波」もかめはめ波だろう。宇宙規模の偉大な想像力に合掌。

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