公開日:2023.11.10
[青嵐俳談]神野紗希選
道後・上人坂の「ひみつジャナイ基地」で、13日(月)まで俳句を展示している。句を刻印したアクリルを天井から吊るしたり、木に印字し壁に掛けたり。文語が墨字になじむように、口語で現代的な素材の俳句が生きる見せ方もあるはず。新しく試みた「ここにある俳句展」、誰かの心に言葉が届けば嬉しい。
【天】
茶の花や馬櫛ぐいと引き下ろす松山 川又夕
馬櫛は、馬の毛や垢を梳く櫛。「ぐいと」の擬態語も「引き下ろす」の動詞の選択も力強く、馬の毛の硬さが手に伝わる。茶の花の距離感も絶妙で唸った。
【地】
クレーンの鉤ぶらぶらと海猫帰る東京 加藤右馬
猫カフェの猫はエリート流れ星大分大院 鶴田侑己
右馬さん、港湾の秋のすさびが、物質の存在感を介し、ありありと。侑己さん、猫カフェに入れない猫が仰ぐ流れ星。エリートは、その光を知らない。
【人】
はすかひに雨集まれる胡桃かな東京 早田駒斗
萩の花フロントガラスに丸く雨兵庫 西村柚紀
駒斗さん、胡桃を定点として歪む世界を、認知に誠実に書いた。秋の偏り。柚紀さん、「丸く」が発見。萩も雨にこぼれ、フロントガラスの景を淡く彩る。
【入選】
学ぶほど薄まるAIの秋思神奈川 いかちゃん
おかえりただいま唐辛子は青い西予 えな
桃太る週末鬼と共寝して東京工大 長田志貫
月蝕や隻眼の猫を撫でてゐる愛媛大 岡田快維
文化祭輪投げに拍手する係秋田 吉行直人
退屈や小春をプリンてらてらす京都 斎藤よひら
秋風や芝生に沈みをる踵兵庫 染井つぐみ
クロサイの一歩に軽き音霜降ノートルダム清心女子大 羽藤れいな
賢治忌を胸ポケットのあるパジャマ東温 高尾里甫
アフターコロナ飛ぶキキララも綿虫も長野 藤雪陽
足音は雨に大きく稲の花京都大 武田歩
八月の空やひまはりいろの痣茨城 眩む凡
パエリアの「パ」を叫びたい冬日和新見公立大 坪田陽菜
風少し眠たく草の花揺るる松山 近藤幽慶
探偵のドラマも秋の雨の中福岡 星加扇
火恋し窓の四隅の曇りけり立教池袋高 述村鶏頭子
ほしづくよ小さいパジャマ着て家族洛南高 高秋
全体の芒の前を通りけり日本女子大 新谷桜子
秋の暮モラトリアムの意味調べ東雲女子大 田頭京花
秋虹にカメラ向ける背写りけり京都共栄学園 川崎亜湖
会釈して相席もうすぐ冬だなあ松山 或人
【あと一歩 青葉のスゝメ】
寝不足や遠くに見える芒原松山東高 山本恭児
曳山の道に出揃ふ秋祭洛南高 久磨瑠
恭児さん、上五がユニーク。「見える」を削り、どんな風に見えているのか描写したい。〈寝不足や遠くにそよぐ芒原〉など感覚を足して。久磨瑠さん、曳山で祭だと分かるので、秋の風景が見える季語を選ぶと解像度が上がる。〈曳山の道に出揃ふ葉鶏頭〉など。