朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2023.01.13

[青嵐俳談]森川大和選

 今年の箱根駅伝は駒沢大の優勝。大八木監督が有終の美を飾った。青山学院大は3位。連覇を逃した原監督の「箱根駅伝には三つの坂があります。上り坂、下り坂、そして、まさか(魔坂)です」の警句が脚光を浴びた。人生にも通じる戒め。用心したい。

 【天】

終電や鉄路へ一つ一つ霜千葉 平良嘉列乙

 仕事納めの景か。通り終えた路線図の大樹形と、何かを封印するように生まれくる万霜の小樹形。終電に揺られながら、一年の仕事に疲れて見る束の間の夢が、幻想世界へ続く。居眠りの意識の底に詩を開く鍵。

 【地】

倒れ込む6区のランナーへみぞれ長野   藤雪陽

 箱根の花は2区。次いで「天下の険」を見上げる上り坂の5区。6区は、転じて下り。標高差約840メートル。坂一途、大腿筋に溜まる疲労。小田原中継所に「倒れ込む」ランナーは多い。今年は晴れたが、句は「みぞれ」。一歩を刻んだ長い足に、一打一打が重く響く。

 【人】

人日の身に覚えなきドッグイヤー神奈川  高田祥聖

 「身に覚えなき」印は、古書に希にある。中国の占いに由来する「人日」を合わせたことで、正月の明ける日に、何かの導きとなる運命的な縁を感じさせる。同時作〈賀状来る本名にまた俳号に〉を詠んだ作者の俳縁の広がりに、お慶びを申し添えたい。

 【入選】

マスクの下でジンベイザメの歌う松山 ツナみなつ

緞帳の奥をアカペラ部の嚔大阪大   葉村直

臀筋を引き締めてゐる凍渡中国  加良太知

暫くは庭の朱欒のことなどを九州大  長田志貫

馬の背に風の分かれ目探梅行松山   川又夕

「みち子」から続かぬ寝言寒造宮城  佐東幸太

窓冴えて日誌に「雨」と書き足しぬ東温  高尾里甫

一月の地球はたぶん未知の色千葉 たーとるQ

あお剥いでまた青刷いて冬怒濤神奈川  ノセミコ

古本のシェイクスピアや冬館日本航空高  光峯霏々

久女忌や本の余白にかく五文字東京  桜鯛みわ

ビル街の底ひ枯蟷螂の空神奈川 長谷川水素

満酌を辞して梟たちと夜を関西大   未来羽

蒲団捲れて宇宙より冥かりき東京  加藤右馬

凩が合図のダイアゴナルラン西条   広瀬康

湯気のぼるチーズハットグ日向ぼこ愛知 紅紫あやめ

置き配の箱は真直ぐにクリスマス茨城  五月ふみ

瞬きは罪へ讃歌は白息へノートルダム清心女子大 羽藤れいな

 【嵐を呼ぶ一句】

北風を拾ふ三八マイクかな三重 多々良海月

 漫才のセンターマイクを「サンパチ」と呼ぶらしい。昔から句のような地方興行はあっただろうが、最近は年末の風物詩となった大きな賞レースの中で、敗者復活をかけた若手芸人が北風のすさぶ中、屋外ステージに立つたくましさを見る。ここにも現代詠がある。

 

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