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青嵐俳談

公開日:2022.11.18

[青嵐俳談]森川大和選

 ミサに合わせて七五三の祝福がある日曜の雨の朝。教会の扉を潜る。純白の聖堂。磔の主。石の洗礼盤。司祭様のカズラの緑。掲げる諸手。薄日差すステンドグラス。背の高い蝋燭。響く声。信者でない我々は聖体を拝領することはできないが、イエス様のペンダントと、松竹梅に鶴亀の描かれた千歳飴の長袋を頂戴する際に、子らはみな、灌水の祝福を受けた。

 【天】

うらがはに落葉の濡れる象の足福岡  森優希乃

 足裏を見た一瞬の妙。そして、落葉積む日本の動物園の象と気付き、風景が哀れみに濡れてくる。一枚付いた足もあれば、数枚の足も、付かぬ足もある。親子でそう。死んだ先代もそう。足裏に日が届き、落葉がぬらりと輝くように、象の眼が喜んだ日はあったか。

 【地】

紙パンツ一枚で居て手に葡萄西予    えな

手のぬくい子と冷たい子花野行く佐賀  杢いう子

 自由で不遜、繊細かつ旺盛な不可侵の命。子どもを愛し、その尊さを捉えた句。後者は二人いて、顔もどこか似ているのに、性格の似つきもせぬ二人を手放さず、等しく対峙するという親の愛の深さ。

 【人】

いわし雲流る兵役ある国へ神奈川  ノセミコ

長き夜の迷ひに硬貨弾くなり大阪   ゲンジ

 平仮名がかえって「鰯」を呼び起こし、隠そうとする人の心の弱さを見せる。雲が士卒の隊列にも、戦車や戦闘機にも、墓標にも、エンドロールにも見える。後者は何の迷いか。表が出たら、武器を捨てるか。

 【入選】

ひらがなの水面を跳ねし歌留多の手岡山    ギル

告白の日の香水を柑橘系中国  加良太知

飴玉のいびつに溶けて秋の海東京 はんばぁぐ

歪なり秋寒のランドルト環千葉 たーとるQ

どんつきを右に曲がつて冬紅葉松山   川又夕

富士山を置き去りに牧閉したる三重 多々良海月

名前なきエンドロールや秋の雲新潟  酒井春棋

水星に行かう露草乗りこなし九州大  長田志貫

白杖の響き聖劇の幕開けノートルダム清心女子大 羽藤れいな

ターミナルケアの窓より冬の潮東京 武者小路敬妙洒脱篤

団栗や本日祖母の百か日東雲女子大  坂本梨帆

いうれいの荷重に撓む芒かな兵庫 染井つぐみ

吊るさるる大筆小筆星飛べり松山  近藤幽慶

冬菫みんな初めて見る部員済美平成  藤尾美波

山眠る和ろうの芯の太さかな同   岡柳仙

罅の牌使ふ雀荘の暖房大阪    詠頃

 【嵐を呼ぶ一句】

障子洗う景色を二十四分割神奈川 にゃじろう

 雪見、額入り、組子など障子の種類は多い。分割するならば一般的な荒組障子か。数に理屈は入ったが、紙を剥ぎ、糊を削いだ清澄な気分がよく出ている。

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