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青嵐俳談

公開日:2022.07.29

[青嵐俳談]森川大和選

 安倍元首相が凶弾に倒れて3週間。事件直後から、弔句と読める作品が届く。〈クローバー訃報流れてしまひけり 若狭昭宏〉は、生還の叶わなかった無念さ。〈電車待つ人らの片手には訃音 羽藤れいな〉は無季ながら、どの遊説先の駅前でも起こり得た事件の恐ろしさを捉えた。〈政治的意図か祈りかパプリカか 高田祥聖〉のパプリカは傷を負った心臓を思わせる。未来羽さんの2句。〈銃の鳴る国と覚えて日傘差す〉隣人が日傘たためば銃かもしれず。〈文月や祈れば熱くなる十指〉祈るのも、引き金引くもその指に。

 【天】

群青の眼どこかに持つ海月京都大   武田歩

 虹彩の濃淡を海に見立てた感性がよい。吸い込まれそう。海月を見つけたら最後、魚影万憶、鯨が翻る。いや、今は痩せた、豊かな海へのノスタルジーか。

 【地】

声帯のずつと濡れたる祭かな大阪大   葉村直

 雰囲気に会話が弾み、つい謡い、合いの手交わし、歌い手代わり、踊り、夜も更く。子はラムネ、大人はビール、親子で分けるかき氷。本当はそう。幸せに読みたい。コロナ禍でマスクを着けたままの湿度か。

 【人】

腐りすらせず電話機と水中花東温  高尾里甫

 昭和レトロな配合。黒電話の重量感。年代物は底板の真鍮に緑青も出るが、スマホの色はアルパイングリーン。清涼な印象を与えていた水中花の光も、ハーバリウムと比べると素朴。最近は苔や茸のテラリウム。

 【入選】

錐は風あつめて夏のくらさを経東京  早田駒斗

点描の最初の点や風薫る名古屋大   磐田小

パラボラアンテナほうたるの一粒東京  加藤右馬

女郎花さいごはひとりの通学路神奈川  ノセミコ

白靴のまさぐる闇にあるペダル岡山    ギル

したゝるよ幽霊船も焼茄子も神奈川  田中木江

なんとまあゴシック体な滝だこと東京  山本先生

デパートのミイラ展なり冷房強長野   藤雪陽

法悦と言わねばならぬ蛾の死相神奈川 いかちゃん

核の世も打たれ続ける油虫同 にゃじろう

ゲルニカはまだ泣いている日の盛松山  松浦麗久

この雨は喜雨か祈りか悲しみか東雲女子大  坂本梨帆

水圧のよはき蛇口の晩夏かな松山   川又夕

夏の喉より水のやうな歌西条   広瀬康

叱る君の血管が好きセロリ食む茨城   眩む凡

蝉しぐれ自傷のごとく髪を染め大阪   ゲンジ

セロ弾いて土星にも海月を送れ九州大  長田志貫

俳号を添へたる鬼籍不如帰松山  若狭昭宏

 【嵐を呼ぶ一句】

Free Hug掲ぐ都会の炎天へ大阪   未来羽

 東京は3万。大阪は2万。コロナの感染者が連日最多を更新する最中にも、偏見を超え、愛と平和を求めて掲げるフリーハグ。言語の壁を超え、国籍も人種も超え、本当は分かり合いたいはずの人類。

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