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青嵐俳談

公開日:2022.06.17

[青嵐俳談]森川大和選

 桔梗打つ朝雨。紫は花脈に夜の濃さを残す。白は鮮明。椀状の花底から、湛(たた)えた雨をきらきら零す。蕾。すっくと伸びて、開く前に首を横へ倒す。屈託のない白蕾の薄緑。慎み深く神聖な紫蕾の濃緑。

 【天】

ひじき刈時折沈むタトゥーは蛾九州大  長田志貫

 胴長姿で、時に膝や腰まで海に浸かる「ひじき刈り」。春の海の明るさに、仲間総出で行う勤労。タトゥーが見えるとすれば、まくった腕か。蛾が海面に上がるたびに呼吸している。水が滴り、生命感を帯びてくる。同時作〈胸に蛭貌には蛍石佛〉〈みがかれて夏蝶うつすステンレス〉も写生の眼が効いた意欲作。

 【地】

たまねぎや無よりときどき宇宙爆づ神奈川  田中木江

 日常を非日常へ変える巧みな取り合わせ。我々の存在する宇宙空間は、スーパーの売り場や畑の中の一玉にすぎないのかもしれないと思わせる。玉ねぎを切ったら、同心円状の星の軌跡が描かれている。

 【人】

ラベンダー火星に移住せし友へ愛媛大    出女

青梅がほろほろ降ってくる冥土

真っ黒な軍靴が夏を歩かせる

 発想の跳躍力。SF映画冒頭の手紙調、忘我する此岸と彼岸の境界、再生される記憶の戦禍。眼前のラベンダー畑、青梅の降る臨場感、大地に靴底を打つ硬さ。確かな実感に支えられた技ありの跳躍力。

 【入選】

サマーセーターたたむや僧の講話前東温  高尾里甫

根つこみな幹へ幹へと愛鳥日東京 はんばぁぐ

夏兆すひかりがブルーシートに跳ね静岡   真冬峰

向日葵を真似て胎児は回りけり日本航空高  光峯霏々

みなそこの一艇の影濃き徂春秋田 稲畑とりこ

銀蝿やワイングラスを眼の巨き長野   藤雪陽

サンダルやレゲエ奏づるやうにガム秋田  吉行直人

シュノーケルはづし麦湯の紙コップ兵庫 染井つぐみ

月涼し漁船の音の洗濯機京都大   武田歩

春眠や乗り過ごせればゆける国大阪   未来羽

蝉の一生とぎれてテープ巻きもどす同  すいよう

不確かな部位の疼痛水中花松山   川又夕

ソーダ水微かに残る顔の麻痺神奈川 長谷川水素

紋白蝶爪の形の遺骨かな沖縄 南風の記憶

切り返すタイヤの痕や沖縄忌千葉 平良嘉列乙

手の甲に書き足す未来若葉風茨城  五月ふみ

空き缶の点字濡れをり薄暑光大阪   ゲンジ

薫風やトゥクトゥクに乗るベビーカー岐阜 後藤麻衣子

 【嵐を呼ぶ一句】

百のマスク解かれ組体操~絆~東京  山本先生

 コロナ対策の「無季」のマスク。初夏の運動会か。子供たちの懸命な姿が浮かぶ。密になる隊形は、練習中もマスクを着けて。休憩が多くなる。一つの演技の仕上がりにも時間がかかる。そのお披露目の組体操。

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