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青嵐俳談

公開日:2022.04.01

[青嵐俳談]神野紗希選

 今日はエイプリルフール。嘘であってほしいさまざまな現実が、今も世界に満ちている。たわいない嘘で笑い合える日常が、当たり前ではないと知る日々だ。

 【天】

「地球星歌」ここに変わらぬ春の空東雲女子大  坂本梨帆

 各国に国歌があるように、宇宙的視野で見れば地球星歌もありうる。「この青空はきっと続いてる 遠い街で誰かが見上げる星空に」は、世界平和を歌った唱歌「地球星歌」(作詞作曲・ミマス)の冒頭。変わらぬ春空も祈りの表明だ。鍵括弧を外せば、さらに固有名詞から普遍に昇華する。一つになった地球の姿。

 【地】

逃水は追はない後ろにも未来神奈川  田中木江

風邪の子の呼吸ももいろ夜の粥岡山    ギル

 木江さん、実体のあやふやな逃水を追わずとも、前だけでなく後ろにだって未来はある。新たな未来観が救いをもたらす。ギルさん、ももいろの呼吸にはきっと命が混じっている。夜の粥のほの白さ、命の灯り。

 【人】

満開のくらげを夢に容れて春大阪  すいよう

祖父に似て冷静祖母に似て笑窪ノートルダム清心女子大 羽藤れいな

 すいようさん、「満開」だから、くらげがまるで花のよう。透明なかがやきのひしめく絢爛な夢。れいなさん、位相の違う「冷静」と「笑窪」が並列されたのが面白い。祖父母から受け継ぐ、生きる力よ。

 【入選】

海明けの優柔不断なる光北海道 北野きのこ

春の闇コンビニ灯で交わす手話筑波大  木谷友耶

ねんねこが空よ優生保護法よ兵庫 染井つぐみ

嘉手納の騒音窓一枠分の春沖縄 南風の記憶

風の尾へ連なる銀の笛うらら東京  早田駒斗

息はホルン巡りて光る風となる京都大   武田歩

風光るブーケの自動販売機長野   藤雪陽

殴られたあとのやさしさ百合の花

日本航空高 光峯霏々

ミモザ咲くパフェにへなへなのシリアル東温  高尾里甫

同名のヒロイン死んだ春疾風済美平成  藤尾美波

マシュマロをつぶせば春愁の体積大阪   ゲンジ

春菊を茹でたり夢を諦めたり大阪 ぐでたまご

仏飯のひかり朧を乾きゆく神奈川 いかちゃん

オキザリス我の寿命が知りたくて西予    えな

首元の心もとなさ花衣松山   川又夕

夏隣マンガの主人公吠える松山 ツナみなつ

私は光つてゐないヒヤシンス名古屋大   磐田小

待合室の仙人掌とワイドショー秋田  吉行直人

兵士にも避難民にも初蝶来神奈川 長谷川水素

花菜ぽろぽろ無口な子の本音茨城  五月ふみ

 【嵐を呼ぶ一句】

やどかりや実はラムネの鎮痛剤宮城    遠雷

 薬効成分がなくても、薬だと思って飲めば症状の改善が見込める、プラシーボ効果を詠んだ。ラムネの明るさ、やどかりのおとぼけ具合が楽しい。意味を超えた取り合わせの軽やかさが、新感覚の世界を拓く。

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