公開日:2022.02.18
[青嵐俳談]神野紗希選
シュールレアリスム(超現実主義)は、夢と現実、矛盾した状態の肯定を目指した芸術運動。ピカソやダリは、意外な配合や不条理の驚きを表現した。リアリズム(写実主義)重視の俳句も、意味を拒否する十七音の短さが、シュールレアリスムの胚胎となりうる。
【天】
キャスター付き椅子で銀河を全速力関西大 未来羽
シュールかつエネルギッシュ。職場などにあるキャスター付きの椅子に座り、なんと銀河へ飛び出した。キャスター付き椅子の生活感が、一気に引きはがされる爽快感。私たちの日常は宇宙と直結していて、ふとしたきっかけで銀河を疾走することもできるのだ。
【地】
着膨れて自分らしくを練習す東京 正山小種
春ぜんぶあげたい緩和ケア病棟神奈川 にゃじろう
小種さん、ありのままを意味する「自分らしく」は本来、練習して身につけるものではない。着膨れて、自分の形から遠ざかる焦燥。自分らしさを強要されるのも苦しい。にゃじろうさん、治癒の難しい患者の苦痛を和らげる緩和ケア病棟。私にできることは少ないけれど、叶うなら、春をぜんぶあげたい。再生の春、輝く命の力に願いを託す。どうか、どうか。
【人】
つもる雪つもらるる雪資本主義名古屋大 磐田小
ねぢれ花ねぢれ彼方に重力波岡山 ギル
小さん、先に積もった雪は新しい雪にのしかかられる。下の雪を圧す新雪も、そのうち「つもらるる雪」となる…。資本主義の搾取構造を雪に見たか。ギルさん、時空の歪みが宇宙を伝播する重力波。捩花のねじれも重力波の影響だったら。造化の不思議が楽しい。
【入選】
梟のまなこであるく都市のあさ松野 川嶋ぱんだ
ペガサスを葬りし夜の冬苺青森 夏野あゆね
蕪の皮厚し竜の息腥し北海道 北野きのこ
面舵いつぱい魚群光れば島の春松山 川又夕
蜜柑剥く予診票へと散る果汁東雲女子大 坂本梨帆
スキタイの金なる鹿の角すべらか洛南高 冨嶋桂晃
絨毯や剣のごときアラム文字静岡 古田秀
半殺しを知る手知らぬ手きりたんぽ秋田 吉行直人
雪はげし音符足りなくなるくらい愛媛大 近藤幽慶
踊りましょう春潮に星霞むまで松山 若狭昭宏
再起動を求めてゐますふきのたう東京 加藤右馬
大岩の影の暗さや冬の星西予 えな
着信の伝ふジャンパーから骨へ京都大 武田歩
繃帯を朧とおもひ洗ふなり大阪 すいよう
四時間目終わり蜜柑の香の迫る東温 高尾里甫
蓬とか摘む積分が分からない神奈川 長谷川水素
くたくたのタートルネック畳むなり兵庫 井上竜太
【嵐を呼ぶ一句】
どこまでがヒトどこからがクロッカス福岡 横縞
どこまでがこころ霜夜のコールスロー神奈川 田中木江
「どこまでが/どこからが」と境界を定める語法は類句が多いので、この2句のように発想の独自性が欲しい。ヒトとクロッカスの境目、心とコールスローの境目。人間や心とは何かを問いかける哲学がある。




