朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2021.11.19

[青嵐俳談]森川大和選

 紅葉の中へ腕を差し入れ、無傷なる三柿を摘む。残るは庭の鳥虫に。青空にザクロ裂くまま。金木犀の散り敷く花の一つ一つの架の十字。八重椿、底の薄紅。一木が毛に覆われたパールミモザ。風の小春。銀葉に和らぐ光。花房は、待春の芽にふくらんで。

 【天】

雪虫の乱舞オポチュニティに捧ぐ長野   藤雪陽

 この探査車は、火星に水の痕跡を発見した。砂嵐に巻き込まれた後、今は火星の一部となった。将来、太陽系の地球に人類が繁栄した痕跡と呼ばれるか。星の水はどこへ旅立ったのか。雪虫は初雪を呼ぶ北海道の風物詩。一体何匹が何片の雪を呼ぶのか。何年前から何年後まで。星と虫に人を繋ぐ水の不思議。

 【地】

ながき夜へほどけて光るひらがなか東京  早田駒斗

 読書の秋の類想を抜け出た句。軽やかな詠嘆がよい。作者自身も解けたひらがなの一画となる、あどけない心地。記憶の深層を耕すミミズのような一冊。

 【人】

爪を毟りて鎌鼬になる準備岡山    ギル

不知火が記憶の箱で濡れている神奈川 にゃじろう

 怪奇2句。鎌鼬となって誰かを裂くために、全指の爪を捧げる呪詛(じゅそ)。しかし「準備」に理知が残る。不知火も不気味に現る。でも「箱」の外は安全。キャラ化した妖怪図のようで、どこか憎めない。

 【入選】

太刀魚の陽射しをほどきゐる背びれ兵庫 染井つぐみ

劇場は硝子の籠や鶸の昼静岡   古田秀

罅に陽の凝る朝寒の鏡かな北海道  ほろろ。

月やこの空腹満たされずに坂神奈川  高田祥聖

葡萄食む選ばなかった過去のこと松山東高  盛武虹色

小鳥来るゴッホの墓はどこですか青森 夏野あゆね

シネフィルの立ち尽くしたる花野かな九州大  長田志貫

月光やシーラカンスは詩をおよぐ京都大    夜行

七竈怒りに満たぬもの溢れ福岡    横縞

一本の不思議な肉である蛇よ関西大   未来羽

鷦鷯祖父はベルトを欠かさない北海道 北野きのこ

無花果捥ぐ友のしこりに触れし手で茨城  秋さやか

コーヒーの熱分け合うて炭の番松山  若狭昭宏

私小説絶版決まり牡蠣の鍋愛媛大    舞句

絆創膏剥がして生臭き長夜京都大   武田歩

アイコンのコスモス君を誘いたし西予    えな

鰯雲ぼくらの民主主義ごっこ沖縄 南風の記憶

そぞろ寒まくとぅそーけーなんくるないさ洛星高   乾岳人

 【嵐を呼ぶ一句】

寒釣の竿の重力辞職せり瀋陽  加良太知

めらめらと抗体孕む星月夜神奈川    木江

 コロナ禍の句か。辞職に時勢の余波はあったか。竿の重さが応える。「めらめら」は微熱、「孕む」は違和感。倦怠感と不安の中で、ひたすら祈る星月夜。

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