公開日:2021.10.22
[青嵐俳談]森川大和選
晩秋の雨催い。運動会の参観は保護者2人までだった。年少児のかけっこ全レース中、最大のフライングでギリギリ1位だった長男の金メダル。諭し、祝う。
【天】
とりあえず記名退職の日は秋沖縄 南風の記憶
「記名」の後で切れる句。退職書類にするサイン。愁思が付きまとう。だがさらに「記名退職」と読めて驚く。語順の妙。秋が急に深まる。希望退職はあるが「記名退職」だ。人事異動も命令書類一枚で喜怒哀楽するが、名を書けば終わる退職。コロナ禍の秋。
【地】
鹿垣のここは精々うさぎ垣東京 大黒とむとむ
「ししがき」は獣害予防のために竹や木で築いた。石や瓦を用いた強固な垣も。農家には死活問題だ。「精々」の言い方がおかしく、しかし臨場感が立つ。野山を「うさぎ」が駆けた時代に戻る。同時作〈雑巾を逃れ案山子の服となり〉も古風な生活感がかえって新鮮。〈独居めくラボやビーカーへと新酒〉との差。
【人】
蛇口盗まれて久しき泡立草京都大 夜行
稲妻や毒のなまえのなぐりがき愛媛大 出女
前者は公園吟行。己を映す蛇口を失い、泡立草が伸び放題で寂しそう。同時作〈月見バーガーくたびれてをる紙袋〉の倦怠感。バーガーの甘さに弥縫(びほう)される。後者は現代社会のストレスが仮託されている。同時作〈しんしんと月影にげたあとの檻〉にも通底する喪失感。〈水澄むや九割水の新生児〉が救いに。
【入選】
洋楽に意訳たっぷり夏休愛媛大 岡部新
ピクルスは抜きでみたいな夏来る東京 山本先生
次で降りるよ有明月のあを白く神奈川 稲畑とりこ
あの雲は秋風に殴られたのか東雲女子大 坂本梨帆
マルチーズの威嚇や曼珠沙華二、三松山 大助
たましひは美しからむ茸飯海城高 幸佑
彗星の尾よ虫籠のしづけさよ静岡 古田秀
水の秋こぐまの爪に捌かるる茨城 秋さやか
トローチはや割れて冷やかなる星夜北海道 ほろろ。
忘れ物した子は手を挙げて鰯雲静岡 真冬峰
中学の運動会は無観客新居浜 翔龍
秋蝶や靴屋あたりを迷いたる名古屋大 磐田小
会へるとき会はないかんわ栗おこは神奈川 木江
高台の三角屋根の朱と秋思東京 武者小路敬妙洒脱篤
冬瓜をにてこころからかたりだす立教池袋高 ずしょ
貫くに立志の頃や鶏頭花東京外大 中矢温
【嵐を呼ぶ一句】
秋しぐれトーキョー都心ギョーザめく九州大 長田志貫
下五の裏切りが面白い。豚・ニラ・にんにく・生姜。餃子の具材はキャベツ以外みな個性派。調味料も塩コショウ・酒・ごま油。混ぜると旨い。一方、皮に包まれて鉄鍋に並ぶ姿は、個性を抑圧されたようにも見える。なのに、一口目の旨さに、すぐに忘れてしまう。