公開日:2021.05.07
[青嵐俳談]森川大和選
日曜大工が趣味の父。今春は和室の前の広縁と目隠しの小藤棚をこしらえた。白藤から取った種が、濃紫に咲いたのも一興。趣味の音が年中庭に響く。だがなぜか、年々鳥の巣が増える。伐る前は、コナラにコゲラの穴があった。ツゲの下に鳩。二卵とも孵り、目下飛翔特訓中。羽や尾の黄色が美しいカワラヒワも、松の頂に営巣した。今年はどうか。来年は孵るか。
【天】
慣らし保育初日の帰路の飛花落花兵庫 西村柚紀
字余りだし、要素も多い。でも、それでよいのだ。この忙しさが、母という仕事の現実。それをやりこなしている疲れも、清々しい充実感も季語に乗っている。こんなお母さんを応援したくなる。「慣らし保育」というフレーズも新しい。未来に残したい現代詠。
【地】
星朧蘇鉄が魚だつたころ静岡 古田秀
童話めく詩性がある。春めきたおやか。星と春と蘇鉄と魚に廻る時間が、一瞬間、月蝕のように重なる。そしてまた、時は別れ、個々に輝き放つ。同時作〈焼べらるるごとく花降る泉かな〉のモチーフと〈三鬼忌の電気ケトルの口に蝿〉の蠅に、よく虚構が効いた。
【人】
初釣の鱒原人の目で炙る東京 中川裕規
「鱒」「炙る」の語が、アウトドアの風景を広く立ち上げて心地よい。「原人の目」は、その言い方に加え、「初釣」の不慣れな第一投から飛躍する諧謔がある。同時作〈若駒の背を九歳の黒き髪〉は正統美。
【入選】
スラックスの折り目春めかせておいて松山 大助
桃の実や前世は双子だったのね愛媛大 永広結衣
捨てられるものに花散るおおきな家東京 大西菜生
手ざはりのぬるき朧のうをのひれ北海道 ほろろ。
猪に掘り起こされしチューリップ西予 えな
サコッシュの端からぴよと風車岐阜 後藤麻衣子
雉の尾をしなやかに風あふるるよ立教池袋高 ずしょ
卒業の日の先生が向こうから京都 青海也緒
春寒や七味の香る当直室関西大 未来羽
革靴の踵のきつく花の昼京都大 武田歩
夏休まづはラヂオを解体す同 夜行
ジャズバーの隠し階段利休の忌長野 藤雪陽
春深し春画をめぐり終へしばし茨城 秋さやか
花冷や黙を愉しむ水煙草大阪 ゲンジ
水鏡蝶はしろがねなる炎東京 早田駒斗
飛行船の部屋を自由な青い蝶神奈川 いかちゃん
靴底のガムは青色梅雨に入る秋田 吉行直人
山笑ふクッションを背に教習者愛媛大 岡田真巳
明石焼ほろりと溶けて春の波兵庫 染井つぐみ
【嵐を呼ぶ一句】
逢えぬ友アイコンに春日傘さす洛星高 乾岳人
コロナ禍の現代詠。この若い感覚がよい。SNSを頻繁に確認し合う仲なのだろう。アイコンの変化に気づき、そこに季節を感じる。ありそうでない一句。