朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2020.10.02

【青嵐俳談】森川大和選

 モンスーン地帯に住む民族は、古くから自然の変化にあらがわずに生きてきた。天地人、皆同じ波長なのだ。空や雲や風や水が澄めば、目も耳も感性も澄む。秋は、自他の余白に、目を凝らす喜びに満ちている。

 【天】

冷蔵庫閉じて明朝体の海立教池袋高   ずしょ

彗星にかかる力や盆踊り洛南高  中城唯稀

 「冷蔵庫」を閉じると虚実反転し、中は海。命を奪われた食材の包装から無数の文字が剥がれ、遊泳を始める。そんな虚世界を追体験させる把握が無二。後者は取り合わせの引力が秀逸。「盆踊り」のしなやかさが、一糸乱れぬまま、エッシャーのだまし絵のように変幻し、時空を押し広げ、宇宙と一体化し、みな「彗星」に化ける因果律を考え、ほくそ笑んでしまう。

 【地】

長き夜の句点の余韻次々と東雲女子大  坂本梨帆

ほうせんか移動販売車のマーチ東雲女子大  坂本梨帆

 読書の秋。文章の行間の広大さを満喫する1句目。「次々と」迫る高揚感に、秋の透明度。2句目は山や島へ生鮮品や日用品を届けるそれと読みたい。のっそりと走る車の「マーチ」の把握がよい。人々に愛されている様子が分かる。季語も穏やかに効いている。

 【人】

のこぎりを研ぎてコギトへ秋の澄む神奈川    木江

 「コギト」は自己意識。そこへ研いだ歯を当てている。デカルトの用いた方法的懐疑もこのような感覚だったろうか。余分な自己を切り落とせば、秋も真実もますます澄む。同時作〈国数英理社秋思から3教科〉も意外。受験子には、秋思も十分入試科目なのだ。

 【入選】

脱け殻に性の勢ひ秋の蛇北海道 三島ちとせ

無花果の精子求むる核はなく今治西高  越智夏鈴

案山子指す先に真顔の女ゐる同  盛武虹色

磯菊や不妊治療の三回目岐阜大 舘野まひろ

洋梨を剥く点描のをんなかな静岡   古田秀

でつぷりとした楽器買ふ九月かな東京  早田駒斗

虫の夜の一音すくふ帽子かな広島 高林やもり

秋暑し放る両脚象のごと京都  青海也緒

秋時雨指が五本である疑問宮城    遠雷

取り替える電球に夜の冷やかさ松山西中等   岡崎唯

新涼や絵皿の底に渦のあり向陽高    美菜

軟膏のまんなかが減りだす夜長東京  小林大晟

長き夜の始まり告げる大あくび大分    優羽

立待や後輩先に座らせて洛星高   乾岳人

書けばみな私小説めく残暑かな岐阜 ばんかおり

秋晴や切り抜きやすい境界線同 ノグチダイスケ

梅雨の蝶ここは地獄でなく地球松山  松浦麗久

芯尽きしシャーペンの白夏日刺す愛媛大    浬蜩

 【嵐を呼ぶ一句】

ヘアドネーションしてから秋遍路へ岐阜 後藤麻衣子

 「ヘアドネーション」が新しい。これは医療用ウィッグなどを作る目的で髪の毛を寄付すること。慈善活動の後の遍路。功徳も高まるだろう。首元に秋風も心地よかろう。つき物が落ちたような軽さ。

 

【応募要項】

 ◇対象は高校生(15歳)~30代。

 ◇投句方法①はがき 作品、氏名、俳号(希望者)、年齢、住所、電話番号、学校名(無記入可)を記入し、〒790―8511 愛媛新聞社生活文化部「青嵐俳談」係へ②ホームページ「愛媛新聞ONLINE」から入力。スマートフォンは下記のQRコードから。

 ◇1週3句まで。日曜締め切り。未発表の自作句に限る。二重投稿不可。掲載作品は「座朱欒プロジェクト」のサイト(https://www.za-chelin.jp/)にも掲載します。問い合わせは電話089(935)2233。

最新の青嵐俳談