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青嵐俳談

公開日:2020.08.21

【青嵐俳談】森川大和選

 学生時代、阿波おどりに興じたことがある。踊る阿呆(あほう)に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々。灯のたぎる演舞場を踏み抜けた後、輪踊りに流れ込み、気が付けば約8時間も踊り通した。中腰に慣れ、腰のひねりでリズムを取る深みを知る。両腕は天を混ぜるように柔ら。足のつま先は、一度地に触れ、引きながら踏みしめてゆくしなり。先の破けた足袋が、今も取ってある。

 【天】

フルートと足袋譲らるる帰省かな松山西中等   岡崎唯

 遠い帰省を控える今夏ではあるまい。平年ならば、盆には親族の会する日もあろう。伯母のフルートに、祖母の夏足袋か。身近な人の過去を知る興味の深まりと、作中主体の夏の成長が見える。

 【地】

脊椎をノーモンとして七月尽北海道  ほろろ。

あだ名なき社員のままや八月来東京  中川裕規

 日時計の影を作る「ノーモン」が効いた。「脊椎」も人間存在の比喩だから2重の比喩。晩夏の疲れにやるせなさを覚える。後者もむなしい。コロナ禍の作。新入社員の最初の数カ月が、歓迎会も打ち上げもなく、本来の社風もつかみ切れぬまま、平坦(へいたん)に過ぎたのだ。

 【人】

パレットのようでトマトのある食卓東京  小林大晟

パセリ嚙む鼻より青き彗星来神奈川     ぐ

 前者は詠めそうで詠めない。日常を非日常にずらすこの作者らしい独自の視点。後者も「切り替え」の技が効いた。清涼感に満ちた「鼻」の中の闇を、宇宙の大きさまで広げ、そこに「彗星」を飛ばす奇策。

 【入選】

小満のうんちを落とすマンタかな大阪 ぐでたまご

海底をなぞりしボタン中也の忌宇和島   栗田歩

肩こりの話は続く氷水東雲女子大  坂本梨帆

留守番を選ぶ権利やレモン水松山    大助

ユーラシア横に広げて籠枕神奈川    木江

熱帯夜宇宙船めくタランチュラ大阪   ゲンジ

昼寝から覚めて月曜かと思う京都  青海也緒

青簾みづになりけりほどかれて立教池袋   ずしょ

緑陰や誰かのための血を抜かれ洛南高   おくい

ウェイターに海の匂へる冷奴同  中城唯稀

背泳ぎや片恋し人みな魚座岐阜 ばんかおり

木下闇五十の首の百の耳鳥取 常幸龍BCAD

はつなつの人工授精の作業かな岐阜大   まひろ

風炉点前使うお茶碗消毒済み洛星高   乾岳人

絆創膏茎に巻かれしチューリップ弘前高  みかづき

セーラーの裾まで夏の空である熊本大  緒方杏里

ミニカーのひつくり返つてゐて昼寝福岡    紫蝶

 【あと一歩 青葉のすゝめ】

夕暮れし露台に兄とタバコの火宮城    遠雷

日曜や西日煮詰めて琥珀糖宮城    遠雷

 前者は「夕暮れの」「兄の」ではどうか。兄の輪郭が際立つ。後者は「日曜の西日」に。より切ない。

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