公開日:2020.04.24
【青嵐俳談】神野紗希選
外出自粛の春、オンライン会議システムを利用して句会をひらいた。事前に投句・選句を済ませパソコンの前へ。電話のように会話を交わし、画面上で互いの表情も見える。顔を突き合わせて句会しているみたいだ。これなら遠方の人や育児・介護等で在宅の人とも句会ができる。新メディアが拓(ひら)く新しい句座。
【天】
ほけきよまでほー長過ぎる電波塔静岡 せつじん
ハモニカは雨のくわりんの花に聞かす静岡 せつじん
1句目、ウグイスがホーホケキョと鳴く、はじめの「ほー」の溜めが長すぎるとツッコんだ。下五に電波塔を据えたのが鮮やか。ひなびた山間がありありと見える。2句目、春に咲くカリンの花の優しい桃色は、ハモニカの素朴な音色とよく合う。ウグイスやカリンとの心理的距離の近さが、俳味を生み詩情を生んだ。
【地】
リュックサックに筆箱と御守りと雪伯方分校 白石孝成
受験生か。勉強のための筆箱と、願いをこめたお守りと。そのリュックに降りかかる雪まで並列にしたところに詩の飛躍が生まれ、リズムもよい。雪降る厳しさをくぐり抜け、思い描く未来へ近づけますように。
【人】
グラタンのふつふつ夜を跳ね返す松山西中等 岡崎唯
相生の松かな一人静かな神奈川 塩谷人秀
唯さん、グラタンが焼ける「ふつふつ」に「夜を跳ね返す」エネルギーを見いだした。孤独な夜と、負けぬ心と。生きる力に満ちた無季の句。人秀さん、相生の松の根方に一人静が咲いていたか。切れ字「かな」を2回繰り返す大胆さが、渋い風景を華やがせる。
【入選】
濡れたれば祈りのまぶたリラの花向陽高 美菜
夜桜やキスやめて聞く救急車東京外大 のどか
ヒヤシンス咲けばあります裏メニュー静岡 古田秀
春空や撮ったおぼえの無い写真東京 小林大晟
三原色手放して立つ夏の朝松山 川又夕
花冷や玩具の剣に射すひかり北海道 ほろろ。
プルタブに似てる担任汗光る弘前高 みかづき
黒板は正直な色春夕焼松山 久保田牡丹
花のころ猫背でつまむ柿の種東雲女子大 坂本梨帆
ネクストバッターズサークル春を待つ秋田 吉行直人
あっ、今日は可燃ゴミの日蛇出づる新居浜 羽藤れいな
花へ雪小児病棟消灯す二松学舎大 本野桜魚
春一番道の真ん中歩きたい富山 珠凪夕波
右耳にピアスある友春の風松山西中等 訛弟
寝室の小さな出窓春一番新居浜 翔龍
春光やカフェテリアから見る孔雀関西大 未来羽
ひとひらの三日月さがすあたたかし神奈川 ぐ
【嵐を呼ぶ一句】
落椿鳩と老女が立ち止まり千葉 正山小種
散髪の鋏にリズム百千鳥岡山大院 岡山もちお
小種さん、「と」がいい。偶然立ち止まる二者に特別な関係性が生まれる。もちおさんは「に」がいい。「鋏のリズム」と「の」にした場合に比べ、加速度がぐんと増す。助詞は一字にして饒舌(じょうぜつ)なり。