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青嵐俳談

公開日:2020.04.17

【青嵐俳談】森川大和選

 本欄の投稿フォーム備考欄に「俳句をはじめてから仕事を客観的に考えられるようになりました。人生の縮図ですね」といううれしい近況コメントが寄せられた。俳句は日記のようなもの。何年前の一句であっても、読めばその時の記憶がよみがえる。まさに人生の縮図。

 【天】

春の昼宅配便がよくとどく東京  小林大晟

 何度も宅配便を受け取るのだから、作中主体はのどかな春昼に外出する気になれない憂いを内包している。下五の表記の伸びやかさに救いがある。玄関口で春の空気を吸うたびに、少しずつ心も晴れてくるはず。

 【地】

たんぽぽや山岳管理小屋は空宮城    遠雷

 調査や間伐の時期以外は、小屋に管理人は常駐していない。日もよく当たり、建物はしっかりしていそうだ。「空」の言い捨てが効いた。「たんぽぽ」がいきいきする。同時作〈ゴルゴダの丘でよもぎを食む子ども〉も面白い。「よもぎ」にもキリストの血が流れる。

 【人】

背骨まで太きサラート春の光熊本大  緒方杏里

 「サラート」はイスラム教のメッカへの礼拝のこと。伸びる「背骨」を認めた視点がよい。四肢も体幹も、信仰心も骨太で、春光を浴びて神々しい。

 【入選】

劣情や春より抜けだせぬ水は北海道  ほろろ。

風船は雲で化石となつてゐる名古屋高  横井来季

中庭に入口が無いさくらかな神奈川    木江

春キャベツぎちぎちハンプティダンプティ松山西中等   岡崎唯

偶然を装ったのは梅でしょう埼玉  さとけん

春まけて貴方のやうな受話器かな神奈川  塩谷人秀

四枚切割つて溢れてくる春思同   とりこ

例文の小さき冠詞やたんぽぽ群二松学舎大    桜魚

集金の戸口にじゃれてくる仔猫神奈川  ふるてい

歩道橋のペンキ塗りたて春の風松山西中等    訛弟

べそかいて大きく春を吸いにけり東温  水かがみ

子はずっと臨時休校ヒヤシンス松山  松浦麗久

Webカメラ越しに巣箱を愛でてをり北海道 三島ちとせ

たんぽぽや退位の皇に無精髭東京  中川裕規

春めくや座金のような存在へ弘前高  みかづき

黄水仙記憶とすこし違ふ人今治  犬星星人

連翹や人好きになる努力をす富山  珠凪夕波

龍天に登るアンティキティラの機械大阪 ぐでたまご

#マミレ系女子春ハヤテ関西大   未来羽

消火器は赤色ばかり猫の恋千葉  正山小種

 【嵐を呼ぶ一句】

「ん」は春の音連帯修飾格の「の」は松山 久保田牡丹

 「ん」は浅春、余寒、バレンタインなど初春の音か。「の」の音もいかにも春らしい。雪の果、木の芽、種物、納税期などの仲春あたり。文法学では「連体修飾格」が正解であるが、「連帯」としても、様々な春の季語が一挙に迫りくるようで豊かさを醸し出す。

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