公開日:2025.08.22
[青嵐俳談]森川大和選
戦後80年。今、自分に何ができるだろうか。現在の世界の戦争について注視し続けること。先の大戦についてもっと知ること。戦争体験をした一人ひとりの声を聴くこと。証言資料を読むこと。それらを持ち寄って、生徒と一緒に過去を知り、生きることの尊さを実感し、未来を案じ、反戦の大切さを伝え合うこと。
【天】
祖父の知る原爆の色蚊遣香八幡浜 福田春乃
被爆体験を聞いたのだろう。直接的に五感で「知る」祖父と、二次的に理解し、想像力を働かせる私。貴重な証言と反戦の教訓を受け継いだ場面ともいえる。蚊を退ける季語に、戦争を退ける意思が込めてある。
【地】
Be water銃より逃ぐるデモの汗埼玉 東沖和季
「水になれ、わが友よ」はブルース・リーの言葉。2019年に起きた香港の反政府デモのスローガンにもなった。形を変え、臨機応変に行動することを意味する。句はデモ隊が力によって封じられた場面を描くが、このままでは納得しない民意を示唆している。
【人】
君が異性ここが異星になる夕焼大阪 未来羽
友人から恋の対象へ変化した瞬間を詠んだものか。その感慨を「異星」の比喩に託した大胆さがよい。同時作〈短夜の工事あるいは餓者髑髏〉も浮世絵の構図に工事現場が挿入され、コラージュした面白さがある。
【入選】
原潜の熱気の籠りだす白夜兵庫 山城道霞
紙タバコのなかにアルミや鯨鳴く京都 宇鷹田
夏池に凪 飛行場あったころ兵庫 西村柚紀
鳥影や墓がプールの底である和歌山 朋記
おぼえたてのことばに触れる夏の霧兵庫 石村まい
再会を後悔しつつ泳ぎけり松山 川又夕
夏痩やアルミホイルの乱反射東京 長田志貫
耳栓の切り取る世界沈むプール静岡 東田早宵
タメ口でいいからマスカットゼリー秋田 吉行直人
白玉や生き抜くための嘘をつき埼玉 伊藤映雪
ぶくぶくのナン横たはる大暑かな千葉 弥栄弐庫
ドロケイのみな夕立に脱獄す大阪 葉村直
耐震のビルの狭間を夏つばめ松山 広瀬康
秋雷や粘菌のうごめくシャーレ京都 ジン・ケンジ
白南風は帝釈天の象の息大阪 家守らびすけ
三面のシヴァ像踊る天の川三重 多々良海月
夜へ跳ねて蛙おのれを引き伸ばす茨城 眩む凡
夜の蝉や上野にガザの旗を振る千葉 平良嘉列乙
水筒のからからと鳴る敗戦忌神奈川 高田祥聖
【嵐を呼ぶ一句】
戦後などなし配給の盥灼く神奈川 岡一夏
今も世界のどこかで戦争が起こり、平和を希求し、配給を待つ人がいる。停戦や終戦も束の間、戦後などなく、一歩誤れば、いつでも戦争がやって来る。「盥灼く」に人々の飢えと渇きが鋭く描かれている。