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青嵐俳談

公開日:2019.12.06

【青嵐俳談】神野紗希選 

 何を詠むかより、何を詠まないかのほうが案外大切だったりする。これは私が詠まなくてもいい。そう思ったら手放す勇気がその人の作家性をつくる。

 【天】

冬よ呼吸をそろえて待っている鳥よ明治大  大西菜生

 いきなり「冬よ」と呼びかけられた大胆さに背筋が伸び、心が凜とする。厳しい冬を迎えるべく、息を整え準備する鳥たちの、生の緊張。呼びかけは、冬を耐え抜く命たちへ、あまねく繰り返されてゆくだろう。人間も、鳥や獣と呼吸をそろえ、冬の兆す青空を仰ぐ。

 【地】

梟やきのふの夢を記したる向陽高    美菜

 夢は記憶の反すうとも、願望の反映ともいわれる。無意識の領域は、自身にとっても不可思議。ここで配合された梟は、私の意識の外側にある世界の象徴だろう。夜の闇の奥に鳴く梟のように、遠く、けれどたしかに、この世界に地続きに存在する夢の世界。白い紙にその記憶をつづる横顔を梟は見据えているか。

 【人】

さかしまのこころ檸檬をしぼりきる北海道 ほろろ。

風穴に落ちてマフラーぬれてゐる浜松  せつじん

 ほろろ。さん、「さかしま」とは、あまのじゃくな気分、あるいはよこしまな心か。レモンの爽やかさが、ぐらぐらの心のバランスを絶妙に保つ。同時作〈冬銀河脳みそにある水たまり〉、脳内にたまる髄液も、こう詠むと冬銀河のかけらのよう。せつじんさん、風穴の暗がりをのぞき込んで落ちた誰かのマフラーが、洞窟のしたたりにぬれている。衣服を介したことで、常闇の冷えの極まりが、身体に直接語りかける句に。

 【入選】

白亜紀の琥珀に触れて冬となる土佐女子高  筒井南実

息白しリングの裏に彫る日付松山  若狭昭宏

生き延びた指先冬は僅かな孤松野 高橋あゆみ

月の宵アイロンは影ならしつつ松山西中等   岡崎唯

宿題はしない木の実を踏んだから弘前高   鰊記高

木曜に葡萄の数をかぞえだす東京  小林大晟

警官のどれもニセモノめくハロウィン愛知   五月闇

インコみたいなサッカーシューズ秋高し関西大   未来羽

シャチハタ売るボックス回しきり氷雨新潟大 綱長井ハツオ

夜の木犀カンバスに黄の溢れ伯方分校  田頭京花

アイドルの禁欲宣言おでん食ふ大阪大  平原陽子

三島忌の鳩の妖しき首の照り今治  犬星星人

リコーダー持って屋上冬の川兵庫   藤田俊

ストローで一つづつ吸ふ星月夜洛南高   まぐろ

牧場のサイロとんがる星月夜同 本気なら。

鍵失くすかなかな木星にあるかな松山  脇坂拓海

凍蝶や埃のたまる非常灯神奈川     ぐ

木犀やイヤホンのL側は君新居浜 羽藤れいな

星流る名もなき家事の幾重にも東雲女子大  坂本梨帆

 【嵐を呼ぶ一句】

先生!どら焼きは季語になりますか新居浜  藤田夕加

 呼びかけにハッとし、発想にほほえむ。後半〈どら焼きは春の季語ですか〉など、季節を限定し自分なりの捉え方を示すと、より方向性がはっきりするか。

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