朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2019.11.29

【青嵐俳談】森川大和選

 子規顕彰松山市小中高校生俳句大会に参加してきた。〈「あ」の文字をなんどもなおす年がじょう 生石小 福田隆晴〉のかわいらしさ。〈真之に思い馳せ立つ夏の三笠 城西中 井上知己〉の凜とした眼差し。「三笠」は日露戦争で連合艦隊旗艦を務めた。現在は横須賀で公開されている。〈夏の雲今日は占い一位の日 しげのぶ特別支援高等部 二宮真緒〉の小さな幸福。〈更衣室のゴキブリもまた水泳部 伊予高 幸田夢月〉の大胆さ。当初の絶叫が愛着に変わる滑稽味。感性の透明感に触れられたうれしい一日だった。

 【天】

るふらんのぎんのおんぷのしぐれをり今治  犬星星人

 「ルフラン」は特定の旋律を反復するリフレインを指すフランス語。〈ルフランの銀の音符の時雨をり〉では確かに強すぎる。ひらがな表記が成功し、言葉の意味を捨象できた。音が反復されるうちに、虚構の「時雨」の中に取り込まれ、人為から解放される。記憶の底の虚実混濁する部分をすくい上げたような一句。

 【地】

あやとりのふたりともセロリが苦手東京  小林大晟

 姉妹か幼なじみか。幼い子供を「ふたり」と客体化した詠みぶりが、過度な情感を排してよい。「セロリ」への展開も、「り」の音の反復もさりげなく技あり。

 【人】

全身麻酔抜けて秋思と入れかはる埼玉  さとけん

 手術の後か。その成功を喜ぶわけでもなく、まだぼんやりした意識の隙間を「秋思」が満たしてくる。静かな対比。こういう取り合わせはあまりなく新しい。

 【入選】

冷やかや巻き尺腰を巡りつつ松山西中等   岡崎唯

冬の雷きずあと見せるために脱ぐ松山   川又夕

襟ぐりのタトゥー黒々祈る秋北海道 北野きのこ

しなやかにくぼむ箸置き黄落期神奈川  ふるてい

ふるさとを捨てるなら秋虹のように愛媛大  近藤拓弥

星月夜弱き地震に目覚むれば洛南高   竹内優

シャッター街百鬼夜行の月夜なり伯方分校  塩見将門

煌々とバルーン投光器や寒夜静岡   古田秀

雪迎えメトロノームは止まらない松山  松浦麗久

枯葉散るヘレン・メリルの溜息に秋田  吉行直人

行く秋や午前が耿々とこぼれ高崎高  大橋弘典

あいづちが何処かでずれて秋の蝶和歌山   季里穂

風呂吹を半切れのせる祖母の箸松山西中等    訛弟

焼き茄子の皮を剝きをり母を恋ふ大阪   ゲンジ

上弦や模試前日の三角比新居浜 羽藤れいな

スリッパの片足探す秋の暮富山  珠凪夕波

 【嵐を呼ぶ一句】

初猟や空白を生む重い東京   上峰子

 連体形の「重い」の後に、読者に「一弾」などの言葉を補完させるのが、この句の字足らずの妙。それが面白い。ただし、因果を残した点が惜しまれる。「猟」は、動物の死つまりこの世の「空白」を生むもので、その喪失にさいなまれる「重み」が詰め寄るもの。

最新の青嵐俳談