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青嵐俳談

公開日:2019.08.16

【青嵐俳談】神野紗希選

 明日から第22回俳句甲子園が始まる。高校1年のとき、放送部の取材で第2回大会を見てから20年。まさか、俳句との付き合いがこんなに長くなるとは思わなかった。あの夏の私のように、今年もきっと、俳句との新たな出会いがそこかしこで生まれるだろう。

 【天】

旱星のやうなソルダム啜りあふ福岡  あいだほ

 ソルダムはスモモの一種。旱星のように赤く丸いソルダム、的確で素敵な比喩だ。さらには「啜りあふ」。二人で分け合う、ひそやかな夏の恋の気配。「旱」の語の乾きが、果実を求める心身の渇きをも誘発する。

 【地】

ともだちは手相が豊か夏の山東京  小林大晟

 手相に豊かさ/貧しさがあるという捉え方が独特。日々を健やかに楽しむ友人を見ていると、たかが手相とは思えない。生命力あふれる夏の山に、小さな疎外感を抱き遊ぶ。同時作〈かなしさに沿ってプールが深くなる〉も、心が世界を形作る逆転の発想が面白い。

 【人】

銀漢や翼濡れればこぢんまり松山   川又夕

ギヤマンもバウムクーヘンも有限同   みなつ

 夕さん、濡れて一回り小さくなった鳥も、銀漢の下で生きる命だ。雫の光も星のよう。「濡れれば翼こぢんまり」のほうが翼の存在感が増すか。みなつさん、割れるギヤマン、食われるバウムクーヘン。どちらも有限だと共通点を提示した。質感の違う二者を並べたからこそ、それ以外のすべてもまた有限だと気付く。

 【入選】

骨髄の昏し花火の湧きたちぬ北海道   ほろろ。

桃あらわ転生信じちゃう系ね関西大   未来羽

老人の笑みて明るき守宮かな大阪    大学

微笑んでゐる焦熱のぬいぐるみ長崎大  塩谷人秀

春雨に息比例して小径かな東京家政高  黒崎愛子

花ミモザみしりと昼の葬儀かな松山 kondoh

杏子食む白黒写真の女学生松山西中等    訛弟

泣きそうな今日を生きていて南風同   岡崎唯

一歳の握力強し青葡萄松山  若狭昭宏

藻の花や悲しき日には悲しき歌を今治  犬星星人

「油蟬少ない」父は検索す 松山    松本美恵子

君消へてしまはぬやうに冷蔵庫松山大 板尾奈々美

西瓜食う死んでいたかもしれぬ子と京都  青海也緒

徘徊の毛虫原宿裏通り松山東高  山内那南

茨の花や強がりはもう飽きた新居浜 羽藤れいな

氷菓で幸せになる夫で幸せである松山  松浦麗久

熱帯夜の底を火の鳥の再誕愛媛大  小泉柚乃

影覆う影の楽しき砂日傘同  細見阿由

噴水やライトアップの色いくつ東雲女子大  坂本梨帆

向日葵は墓石戦争はいらない 神奈川   ぐ

海の日の海には遠きパイプ椅子愛知  蟻馬次朗

 【嵐を呼ぶ一句】

わたがしわたがしくつわ虫やかまし埼玉  さとけん

 「し」の脚韻で独自のリズム。甘い綿菓子とうるさいくつわ虫の配合も絶妙。同時作〈クーラーと8を越えられない秒針〉、電池が切れかけ進まぬ秒針のもどかしさを、文字盤の数字で示したのが新鮮。クーラーの効いた変化のない部屋にも、時間は摩耗してゆく。

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